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アリファリング No.29 Cogwheel of fate

2010年03月27日 18:38



 視覚を通して広がる至災の間にフェイル達は思わず息を呑んだ。
 エオス塔同様のブロックで包まれた外壁に、何やら特殊な紋様が隙間無く張り巡らされている。
 円状のその空間の奥に控えているのは、複雑な紋様の陣だった。
 この陣を通して悪心を葬るのだろう。フェイルは重苦しい空気をゆっくりと呑んだ。

 円状の空間の広さはせいぜい直径20から30メートル程度のものでそこまでの広さではない。
 フェイル達が陣の目の前まで到達するのはすぐの事だった。
 アリファが大きく息を吐き出す。幾度か深呼吸をした後、覚悟を決めた様に陣の中へ入ろうとしたその時だった。

「待てよ」

 背後からの声にフェイル達は一斉に後ろを振り向く。
 入った時点では見えなかった死角に20代前半から半ばと思われる男が壁に腰掛け佇んでいた。
 少しウェーブの掛かったなだらかな黒髪に鋭い眼光がフェイル達を何となく威圧している。
 即座に理解出来た。この男が敵だという事を。

「何で至災の間に入っていられたの!」

 最初に叫びをあげたのはアリファだった。
 確か言われてみればその通りである。特殊万物が必要不可欠なこの場所に何故入れたのか?
 皆が動揺する最中、男はウェーブを手でくしゃくしゃとし、とかし直すとぶっきらぼうに背中に手をやった。
 見えていなかったが、男の背中には剣が携えられていた。男はそれを引き抜き、見せつける。

 その剣はフェイルの持つアダムの王剣と瓜二つで、違いといえば柄のエンブレム程度だ。
 皆が頭を傾げる中、アリファだけは察したらしく、僅かに呼吸を乱していた。

「それは……イヴの妃剣」
「ご名答。これはそこの銀髪の持っているアダムの王剣の対剣、イヴの妃剣だ」
「銀髪じゃない、フェイル=ディアンだ。お前が此処に居られた理由はわかった。ならば、お前の目的は何だ」
「目的? 鈍い奴だな。俺の目的は他ならない、そこの女の悪心だ」

 男が眼光がより鋭くなるのを見て、フェイルは本能的に剣を構えた。
 続いてヨシアとリツカも身構える。が、男は両手をあげて攻撃の意思が無い事を示した。

「待てって、もう少し話と洒落込もうじゃないか」
「えらく余裕だな。じゃあ聞かせてもらうぞ、お前の名前は何だ。そして何故悪心の存在を知っている」

 後ろからヨシアが睨みを利かせた。
 男は溜め息をつくと、侮蔑するかの様な目でヨシアを見る。

「自分から名乗るのが礼儀だろう。リヴァン=ベールドールだ、お前等も名乗れ」
「さっきも名乗ったが、フェイル=ディアン」
「アリファ=ベルモンド」
「ヨシア=ロダン」
「リツカ=イタチ」

 リヴァンはフェイルを見て薄らかな嘲笑を浮かべた。
 その後でまたヨシアを見つめ直し、目を鋭くする。

「何故悪心の存在を知っているかを聞きたがっていたな。簡単な事だ。フェイルがアダムの王剣をアリファの結晶と共鳴させた時、俺の持つイヴの妃剣にも同様の現象が起こったからだ。そして共鳴を通じて俺は悪心の情報を得る事が出来た」
「そこまで密接に。何で接点を持たない俺とお前が持つ剣にそこまでの接点があるんだ」

 当然の見解としてフェイルは言葉を返した。
 が、リヴァンの反応は余りに嘲笑的で、口元は酷く歪んでいる。
 挑発的な笑みにフェイルが感情をあらわにしていると、リヴァンは口元をつぐみ、再度開いた。

「接点を持たない? お前は本当に無能なんだな。俺達の接点等、至極原点に存在している。そう、25年前の大戦争から」
「何だと?」
「当然の話だが、アダムの王剣を前代所持していたのは自由派のアラン=ディアン。そしてディアンの名を察するに、お前のアランの息子といった類だろう。だとしたら皮肉な話だ、イヴの妃剣の前代所持者を教えてやるよ」

 この時点でフェイルをはじめ、この場にいた誰もがその所持者を察せられた。
 同時にこの戦いが言わば宿命でもある事を理解する。
 25年前に起こった大戦争。それが新時代の流れで未だ繋がっている。
 リヴァンが次に口を開いた時、その思惑は確信へと変化した。

「支配派のリーダーを務めたジンガラム=ベールドール。俺の父親だ。俺の父親はアランにその命を討ち取られる前、母体の胎内に生命を宿した。それが俺という訳だ」
「大戦争の結末を作った対剣がこんな形で引き継がれ、皮肉な偶然を手繰り寄せるとは」
「偶然? 寝惚けるな、これは運命だ。大天使ミカエルの下、対剣が生み出されて以来、それを持つ二人は運命的な戦いを強いられてきた。対剣の片割れが刃を折らぬ限り、運命の歯車は回り続けるんだよ」

 余りに重々たる意味を持つリヴァンに発言に、フェイルは暫く言葉を失った。
 大天使ミカエル。この世界の誕生と共に存在していたという伝説の始祖。
 リヴァンの話通りになぞるならば、戦いは遥か昔から続けられたという事になる。
 そしてその新代が自分。フェイルは自分の持つ運命を胸に感じ込めた。

「そうか、そしてお前は亡き父親の為にも、悪心を利用して世界に支配をもたらそうって訳か」
「フェイル、お前は天才だな、的外しの。確かに俺はアリファから悪心を奪う。至災の間は万象を葬る事も出来るが、転送する事も可能。故にそれを俺に宿し変える事も出来るからな。だがそれを使って誰が世界を支配すると言った」

 リヴァンは両手大きく広げ空気を仰いだ。
 右手を大きく上に振り上げると、親指を下につき立て、振り下ろした。

「俺のこの世界に落胆している。自由も支配も、どちらも満足な結果を得られないこの世界に。ならばこの世界に出来る最善手は何か、俺は思いついたんだよ。破壊すればいいと」
「破壊すればいいだなんて、詭弁じゃないか!」
「詭弁かどうかはお前が決める事じゃない。そこで舞い込んできたのが悪心の話だ。天災の力を使えば世界の破壊等容易い」

 リヴァンは高笑いした。狂ったその思想にフェイルは目を細ませる。
 誰もが怒りに打ち震えるその最中、ヨシアだけは挑戦心を煮えたぎらせる様にフェイルの肩を叩いた。

「英雄の偉業らしくなってきたじゃないか。この世界破壊論を唱える馬鹿を倒して、さっさと悪心を葬ろうぜ」
「ヨシア……そうだな。表沙汰になる訳じゃないけど、こいつを倒して悪心を葬るのだって十分な偉業だ」
「そうだ。だから集中しろ、大切な奴を失わない様に」
「大切な奴か。そうだな、終わらせよう。こんな奴倒して、さっさとエピローグだ!」

 フェイルは剣をリヴァン目掛けて構えた。
 続いてヨシアとリツカも武器を構える。アリファは状況を察して壁際に身を引かせた。
 
 リヴァンは様子を伺いながら、足を後ろに進めて行く。次第に距離を置いていき、フェイル達から数メートル立ち退く。
 ふっと息を吐くと、その目は戦闘に向けてより一層殺戮的なものとなり、携えた剣と共に向けられた。
 絶妙な空気が双方の闘気を荒ぶる。









運命は狂々と廻り出す。世界を懸けて討て!

次回、刹那が招くは?


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アリファリング No.28 迷いは捨てたはず

2010年03月26日 12:39



「青春って良いわねえ」

 事情を悟ったリツカは首を傾け、右手でそれを支えながら感傷に浸っていた。
 ヨシアは隣に立ったまま、隣のリツカを見続けている。
 その視線を察してリツカは首を左に曲げると、ヨシアと目が合った。
 リツカは思わず溜め息を漏らす。

「あんたがもう少し格好良かったら私の旅も薔薇色だったかも知れないのに」
「それはこっちの台詞だ。俺はお前の胸にしか興味はねえよ」
「あっそ。でも見ないでくれる? 気持ち悪いから」

 リツカは腕組みをして胸を隠すと、そっぽを向いた。
 ヨシアは暇になって片足を足踏みさせていると、住宅街の中から出てくるフェイルとアリファを見つけた。

「お、帰って来た」
「ごめん、待たせた」

 せかせかと戻って来る二人にヨシアとリツカはそれ以上の詮索をしなかった。
 触れていい話題と悪い話題の良識程度は持ち合わせていたからだ。
 ただ、アリファの指輪がフェイルの指に移っている事に気づいて、二人は目を合わせて笑みを浮かべた。
 ヨシアは何気ない様でフェイルの肩にがっつく。

「それじゃ行くか、エオス塔はすぐそこだ」

 フェイルは頷き返事を返すと、勇み良く足を出した。
 皆がそれに続き、数分歩くと、エオス塔はフェイル達の眼前にそびえ立っていた。
 フェイルは思わず息を呑んだ。

「これが……エオス塔」
「さっさと入れ」

 ヨシアがフェイルの背中を押した。フェイルはバランスを崩し、エオス塔の中へと入る。
 それに続いて皆もエオス塔に入っていった。
 フェイルが納得いかない様にヨシアの方を振り返った。

「今までの思い出が走馬灯の様に走っていたのに」
「今までの? 馬鹿言ってんじゃねえよ。今からだろ」

 ごく自然過ぎる事にフェイルは気づかされた。
 間抜け過ぎる自分の決別を示すかの様に、指輪のはめられた手を強く握り締める。
 だがここで、ふと感じた疑問をフェイルは漏らす。

「だけど、100階があるにしてはやけに低い塔じゃない?」

 確かに、と唸る皆だったが、リツカだけは寝惚けた事を言っているといった様を示していた。
 皆がリツカの方を自然と見ると、リツカは頬を掻いた。

「低いも何も此処が100階よ。この塔は101階まであるけれど、構造は100階から地下に伸びてるから言わば此処が1階ね」
「という事は此処はもう、至災の間がある100階ってこと!?」
「そういう事になるわね」

 フェイルの問いに意図も容易く答えると、皆は驚愕した。
 考えてもいなかった。此処が終着点等とは。

「じゃあ、100階裏ってのは何処にあるんだよ」
「此処が100階なら確か……」

 ヨシアが動転している内にアリファが壁を沿う様に触っていく。
 僅かに窪みがある箇所を見つけると、アリファはローブを脱ぎ捨てた。
 シースルーに近い露出的なワンピースと共に、黒翼があらわになると、途端に壁と黒翼が共鳴し始めた
 互いが異様な淀みを放つと共に、その壁は入り口を作り上げた。

「最果ての泉で生まれた私の様に、超自然で発生した特殊万物でないと、此処の入り口を開く事は出来ないの」

 自らが誕生した時から記憶にすり込まれていた様にアリファが語る。
 だがその最中、フェイルは顔を赤らめていた。

「改めて見ると、少し過激な服だよね」
「え…なんかそう言われると恥ずかしい」

 アリファも顔を赤らめた。だが、今から悪心を葬る以上、その対象である黒翼を覆うわけにいかない。
 二人が目を細かに動かしながら裏口へと入って行く様を見て、ヨシアは苦笑いした。
 暫く裏口を進んでいくと、今度は大きな門の様な扉に出くわした。
 動かない様にロックが掛けられている様だったが、鍵穴等は存在しない。
 フェイルが困った様子を見せていると、アリファは後ろからフェイルの剣を引き抜いた。

「その扉も私の黒翼で開けられるんだけど……フェイルのその剣でも開けられるから」
「俺の剣で?」
「さっきの入り口も本当はフェイルの剣でも開けられたのよ? ただ私が少し格好良いとこを見せたかっただけなんだけどね。その剣、アダムの王剣は同種の剣、イヴの妃剣と対を成している人類最古の剣だから。それも超自然で発生した特殊万物なの」
「アダムの王剣ってそんなに凄い剣だったのか。知らなかった」

 フェイルが感心した様にしていると、アリファは扉に剣を突き立てる事を催促した。
 その通りにフェイルが剣を突き立てると、扉と剣は眩い光で共鳴した。
 その光がアリファを結晶から救ったあの時の光と同じ事にフェイルは驚嘆した。
 アリファを救った時のあれも、アダムの王剣が生み出した共鳴だったのだと。
 光で前が見えなくなかった刹那、光は途端にその輝きを止め、皆が気づくと扉は既に開ききっていた。

「門が開いたな」

 ヨシアが息を小さく吐きながら呟いた。
 この言葉で皆は少し安堵したに違いない。ヨシアが自分と同じく心拍を早めているという事に。
 来ると理解していたはずこの時が、何故か今になって、とてつもない重圧になって襲い来る。
 皆が足を動かせない最中、フェイルがそれを打開した。

「行こう。迷いは捨てたはずだ」

 途端に皆は軽くなった足を実感した。
 フェイルの言う通りだった。迷い等既に捨てて来た。ならば何に怖れる必要がある。
 直進。フェイル達は、至災の間へと入っていった。









もう迷いは無い。最高潮(クライマックス)は眼前に!

次回、至災の間。易々と物語は終わら……ない?


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コメント返信


>のくにぴゆうさんへ

こちらこそ有難う御座います。

GTOですよ。大好きなんですGTO (笑)

応援有難う御座います! のくにぴゆうさんも頑張って下さい!

アリファリング No.27 アリファリング

2010年03月24日 17:31



「いやあ!」

 アリファが強く突き放すと、フェイルはしりもちをついた。
 と同時に、我を取り戻したかの様に、フェイルは自分のしでかした事に錯乱する。

「う……ごめん!」

 右手で頭を押さえ込みながら、左手で振り向き様に立ち上がると、覚束ない足つきでフェイルは住宅街の奥に走って行く。
 訳も分からず戸惑いながらも、アリファはフェイルを追いかけた。
 フェイルは来るな、来るなと追いかけるアリファを顔で拒むが、足を絡ませその場で転倒した。
 それを見たアリファは慌ててフェイルに駆け寄るが、フェイルは具合を悪くし、壁に少量嘔吐する。


「だ、大丈夫!?」
「いきなり抱きしめたりして、ごめん」
「いいの、そんな事もういいから、落ち着いて」

 アリファはゆっくりとフェイルの背中を擦った。過呼吸になりかけたフェイルの気持ちを静める。
 フェイルが大分冷静を取り戻したのを確認して、アリファは緩やかな表情を浮かべた。


「私を住宅街の中に連れ込んでから少し変よ? どうしたの」

 フェイルは核心をつかれた様にはっとした。震える手でアリファの両手に触れる。

「怖いんだ……至災の間を目前に何かが起こったら。至災の間で悪心と共にアリファも葬られたらって」
 
 歯を震えさせながら、フェイルは縮こまっていた。
 大の男でも、失う事には臆する。それが大切であれば大切である程、同時に恐怖の対象にもなり得る。
 少なくとも今、フェイルの胸中は十中八九それが支配していた。
 そんな怯えたフェイルの手をアリファは今度、被せる様に自分の手で包み直した。


「大丈夫。私がフェイルと最初会った時、生きる事を臆した様に、フェイルは今、私が生きている事に臆しているだけ」
「それは違う、俺はアリファが死ぬ事に臆しているんだ」
「ううん。フェイルは私が生きている事に臆しているの。もし私が死んだら、フェイルは臆する事を忘れるでしょ?」

 その通りであった。
 確かにもしアリファが死ねば、フェイルは最早臆などしないだろう。ならば、死に対し臆しているとは言えない。
 紛れも無い真実。フェイルは、アリファが生きている事に臆していたのだ。

「心配しないで、私に生きる事を教えてくれたのはフェイル。だから今度はあなたに教えるわ。私が生きている事を」
「それは……」


 アリファはフェイルにプレゼントされた指輪を指から外すと、フェイルの手を優しく持ち上げた。
 リスでのあの時とは立場を逆転させ、今度はその指輪をフェイルにそっとはめた。

「どんな陳腐な物でも、それにこれ以上無い気持ちがこもっていれば、その物にはその人の心が宿る。なんでしょ」

 アリファは朗らかに笑むと、今度は自分からフェイルを抱きしめてやった。
 フェイルの嗅覚にほのかに心地よい甘い匂いが伝わる。
 触れ合う肌から感じる体温が止め処なくアリファが生きているという実感を与えてくれる。

「少しの間だけど、フェイルにそれを貸してあげるわ。だから感じて、私がいきているって事を」
「ありがとう」

 最果ての泉で出会ったあの時。まさか自分が救われるだなんて思ってもいなかった。
 今のフェイルにとって、最初から感じていたはずの答えが、確証を超した実感となって感じられる。
 今なら言える。今だからこそ言える。今しか無い。この気持ちを伝えるタイミングは。



「アリファ、俺は君の事が好きだ」

 それは余りに突然過ぎて、当然過ぎる一言だった。
 アリファもそれは船上でのヨシアの配慮によって気づいており、こんな時が来る事は既に感じていた。
 だが何故だろうか。未だに答えが出せていないのは。

 アリファは暫くの沈黙を保った。

 確かにある、フェイルに対する胸中の感情。
 これは愛なのだろうか? それとも、それ以下の感情なのだろうか?
 だが少なくとも、顔を赤らめ、心の臓を早々と打ち鳴らす今のアリファの芯には心たる答えが存在した。


「今は未だわからない。でも、至災の間に悪心を葬る事が出来たなら、その答えは必ずだすわ」

 見据えた確信。悪心を葬る果てにこの感情が熱く煮えたぎったならば、それは間違い無く愛なのだろう。
 答えの見えないアリファの返答だが、フェイルはそれに納得した。

「わかった。色々と着き合わせてごめんね。でも決心が着いたよ、至災の間に行く決心が」
「そう、それなら良かった。じゃあ行きましょ」

 二人の表情は何時に無く凛としていた。至災の間を控えるにして、万全たる信念を据えて。
 フェイルの指には、アリファから借りた指輪がしかと入っている。









不穏の末、辿り着いた信念。アリファリングは受け渡された。

次回、遂に至災の間へ突入。その先には何が?


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アリファリング No.26 時計台

2010年03月23日 18:37



 勇み良い足取りで船乗り場を離れたフェイル達は、町の中心部を歩いていた。
 武器屋、防具屋、薬屋。あらかた揃った街並みを抜けていくと、一際住人が集まっている所があった。

 フェイルが上を見上げると、そこには大きな時計台がそびえ立っている。

「大きな時計台だな」

 感心した様を見せていると、リツカが物知り気に豪語した。

「その時計台はルディブリアムのシンボルみたいなものらしいわよ。それと同時に大きな謎もあるらしいけど」
「どういう事だ?」

 ヨシアが話に食いつくと、リツカはペダンティックに語りを続ける。

「この時計台の深部は時空間が密接に関係しているらしくて、その系列のモンスターも多く出没しているらしいの」
「だけど、その出現下が解明されていないと」
「そういうこと」


 そんな謎多き場所というリアルとは相対して、集まっている住人達は皆、ごく日常的な表情を浮かべている。
 こんな近くに世界が翻るやも知れない謎が眠っているかも知れないのに、人は余りに悠長なものだ。

 自分という存在が既に謎で満ちているアリファにとって
 それに触れようとしないここの住民には、自己的に腑に落ちないものがあった。


「何で皆、時計台しか見ようとしないんだろう」

 アリファがぽつりと呟いた言葉にフェイルが反応した。

「それは恐れているからだよ。中身が分からない蓋を開ける事に」
「そう……ね」

 アリファは半分納得出来ない様に頷く。フェイル達は時計台を後にしていった。



 それから暫く歩いていると、中心部からは少し外れてきたらしく住宅街に辿り着いた。
 大分エオス塔が近くに見えてくると、リツカが呟く。

「この住宅街を過ぎればエオス塔ね」

 一同に安堵の表情が浮かぶ。しかしフェイルだけはため息をつきた気にしていた。

「考えてもみなよ、何気にここからエオス塔までまだ結構あるじゃないか」

 今度は一同に不穏の表情が浮かぶ。しかしそれを更にリツカが返した。

「大丈夫よ。確かにこの住宅街は長いわ、だけどその為の工夫はされてるから」

 リツカは辺りをうろうろと見回すと、色の違うブロックの床を見つけて指差した。
 ブロックは丁度、人一人が納まる程度に大きさである。


「フェイル、この色違いのブロックに乗って目を瞑ってみて」

 何が起こるのかを聞くフェイルを押し切りながら、リツカはフェイルを色違いのブロックに乗せた。
 フェイルは腑に落ちないまま、仕方なく目を閉じると、何かに体を包まれる感覚に襲われた。

 慌ててフェイルが目を開くと、そこにリツカ達の姿は無かった。
 驚嘆してその場を必死にうろうろしていると、透明色に近いオーラの様な何かを纏いながら、リツカは目の前に突如現れた。


「え? は?」

 何が起こったのか理解しきれていないフェイルに、リツカは呆れ顔を見せる。

「動揺し過ぎよ、よく辺りを見なさい」

 そう言われて辺りをよく見渡すと、大分遠くの所でアリファとヨシアらしき人物が手を振っていた。
 フェイルがぽかんとしている内に、今度はアリファが色違いのブロックに乗って目を瞑ると、アリファが眼前に現れた。
 ヨシアも同じくしてフェイル達の下に来ると、リツカはフェイルに問いた。


「流石にもうわかったでしょ」
「ワープ?」
「そう、正確には時空変化移動だけどね。色違いのブロック乗って目を瞑ると、ブロックに内臓されたシステムが作動して時空間が四次元に変化するのよ。詳しい仕組みはわからないけど、それで瞬間的な移動が可能になるみたい」

 リツカは色違いのブロックを足で示すと説明を続ける。

「そしてこの瞬間移動の範囲は約100m程度。色違いのブロック間の移動が可能で100mおきに設置されているわ」
「要するに、これを使えば住宅街を抜けるのなんてすぐってわけか」


 フェイルが勢いよく声を上げると、リツカは合わせて頷いた。
 残りの道をそれで移動すると、長いはずの住宅街は最早端が見えてきている。

「さあ、エオス塔までもうすぐよ」

 リツカが勇んで進んでいる傍ら、フェイルの表情は次第淀んでいた。
 ヨシアがそれを不安気に見つめていたその時、業を煮やしたフェイルは決心した様にアリファの手を握って立ち止まった。

「どうしたの?」
「ごめん、ちょっと待ってて!」

 そう叫んでフェイルはアリファの手を引っ張り、住宅街の中へと入り込んでいった。
 リツカはそれを止めようとしたが、ヨシアがそれを制した。


「どうして止めたの!?」

 急な事態に喚くリツカの肩にヨシアは手を乗せた。

「あいつ等は少し特別なんだよ」


 一方、人ごみの少ない住宅街の隙間に連れ込まれたアリファは動揺していた。

「な、何でこんな所に連れ込んだの?」

 俯いて黙りこむフェイルの肩をアリファが揺らす。

「どうして? ねえ、答えてよ」

 その刹那、フェイルはアリファの背中に手をやると、アリファを感情的に抱きしめた。
 突如起こった事に、アリファは目を丸くする。



続く





何か今話は上手く書けなかった (汗)
次の話は重要だし温泉行ってきて気持ち入れ替えてくる!

次回、フェイルが起こした謎の行動に何の意が?


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アリファリング No.25 ルディブリアム

2010年03月20日 12:01



「皆様おはようございます。ルディブリアム到着まで一時間を切りました。下船の支度を宜しくお願い致します」

 船内放送によって目を覚ましたのはリツカだった。
 宴に浮かれてどうやら寝過ぎていたらしい。リツカが辺りを見回すと、他は皆未だに眠りこけていた。

 リツカが慌てて三人を起こすが、三人はまだ寝ぼけきっている。
 業を煮やしてもう時間が無い事を叫ぶと、三人はとんで起き上がった。


 とりあえず空腹で……というわけにもいかず、飲食注文ボタンで朝食を注文し、その間に身支度を整える。
 朝食を急いでがっつくと、歯を丁寧に磨いて今日の準備を万全にした。

 到着も大分迫り、フェイル達は自室を出た。
 ホールに向かう最中、フェイルは未だ眠たそうに髪を掻き毟ると、一発根入れに頬を叩いた。


「宴もあって余り雰囲気は出てないけど、今日でこの旅もクライマックスなんだよな」

 アリファは息をのんで神妙な顔を浮かべていた。自分の中に有る悪心がまさに今日、時空の歪に葬られる。
 フェイル出会ってたったの二日。事は面白い程に順調に進んでいた。それが逆にアリファの不安を押し上げる。


「これ以上、何も起こらないかしら」
「心配すんな」

 ヨシアはアリファの耳元に息を吹き掛けた。アリファはぞっとしたように肩を竦み上げる。

「何も起こらないっては断言出来ないが、お前は特等席で見たろ? 俺達のバルログと戦う様を」
「私がいなきゃ、多分負けてたけどね」
「うるせえボインリツカ! とりあえずよ、安心しろってこった」

 心が平常を崩しそうになった時、幾度と無く支えてくれた仲間。
 フェイル、ヨシアに新たなに加わったリツカ。彼、彼女等をなくして今の自分はあり得ない。

 安心させようと微笑むフェイル達に、アリファは同様の微笑みを返した。



 ホールに着くと、既にそこは乗客で溢れかえっていた。ヨシアが受付に鍵を返しに行く。
 受付は丁重に礼をすると、ヨシアから鍵を受け取った。戻ってきたヨシアは何故か血相を変えている。

「どうしたヨシア?」

 フェイルが困惑した様に尋ねると、ヨシアは唾を飲んで答えた。

「受付の姉ちゃんが昨日と違った」
「それがどうかしたのか?」
「それがよ……すげえ美人だったんだ」


 全く興味が無いように、フェイルはそこで会話を切った。

「ちょ、本当に美人だったんだって……」
「皆様、長らくの乗船お疲れ様でした。ルディブリアムに到着致しましので、乗組員の指示の下、下船をお願いします」

 ヨシアの会話を割るように船内放送がなると、乗組員がホールから下船を指示した。
 フェイル達は話を続けようとするヨシアを放って指示通り下船しようとしている。
 ヨシアは目頭に涙を浮かべながら断念し、渋々後ろに着いていった。

 フェイル達が下船すると、そこには搭乗した時のリスとは全く異なる光景が広がっていた。



「すげえ」

 フェイルが思わず声を漏らしたその先に広がっていたのは、時空の管轄を行う街、という固いイメージを一瞬で払拭するレゴブロックで構成されたメルヘンでおもちゃチックな街並みだった。
 他の皆も、童心をくすぐられる様に、その光景にわき立っていた。

 ヨシアがいの一番に感想を語る。


「俺はてっきりルディブリアムってのは、もっと重苦しい様な街だと思ってたぜ」
「私もそんな感じだと思ってた。まさかこんなメルヘンチックな街だなんて」

 アリファも驚いた態でいる中、リツカだけはわき立ってはいるものの、驚いてはいない様子だった。

「私はここに冒険で何回か来た事があるから。それでも童心をくすぐられる事に変わりはないけど」
「来た事あるんだ! それならエオス塔の100階にある至災の間もわかる?」

 フェイルが尋ねると、リツカは容易く答えた。

「その至災の間ってのまではわからないけど、エオス塔の場所ならわかるわ。名の知れた塔だし」
「そっか、それならエオス塔を探す手間が省けた」
「省けたも何も、街の左右端に二つの大きな塔が見えてるでしょ? あれの左手がエオス塔、右手がヘリオス塔よ」

 三人が左右を見ると、確かに街の両端に、街を支える様に大きな塔が二つそびえていた。


「何だ、あの左手に見える大きな塔がエオス塔だったんだ」

 フェイルが恥ずかしそうに右手を頬にそえると、リツカはくすりと笑った。
 アリファもヨシアも知らなかったらしく、それを苦笑いで見つめながらも、頬を赤らめていた。

 しかし、メルヘンチックな街並みに気分こそ踊らされているが、いよいよ本腰を入れねばならない。
 フェイルは太ももを二回程叩くと、すっと背筋を伸ばした。

「それじゃあ行こう、エオス塔100階至災の間へ」









一同、意思を胸に目指すは最終地点、至災の間!

次回、エオス塔へ向かう道中で……?


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アリファリング No.24 今宵は宴だ

2010年03月16日 22:26



「それじゃあ、事も終わったし。船内放送が流れる前に船内に戻るか」

 ヨシアを筆頭にフェイル達が船内へ戻ろうとしていると、それをリツカが止めた。

「ちょっと待って。聞きたい事があるの」
「何だ、ボインの事なら遠慮させてくれ。これ以上俺の株が落ちると出番が減る」
「ボインのくだりは作者が今更後悔してるからもういいわ。私が聞きたいのはあなた達が何を目的に旅をしているのか」

 リツカの目は真剣そのものだった。それを察してフェイルが会話に割り込む。

「何だそんな事を聞きたいんだ?」
「私自身、冒険家をやっているけど、今現在は目的がないの。だからあなた達の旅に何か目的があるのなら、同行させてほしくて」

 フェイルは顔をしかめた。自分だけでは判断しかねる事だと、アリファとヨシアに相談する。
 結局出された結論は、今回の事を考えても残りの旅路は少ないが仲間を増やすべき。という結論だった。
 フェイルがその趣をリツカに伝える。

「わかった。それなら詳しい話は俺達の船室で説明する。とりあえずついて来てくれ」


 リツカを連れてフェイル達が自室に向かっていると、船内放送が流れた。
 被害無く事が収まった事を知ると、乗客達は安心と確認の意で上甲板に上がっていく。
 フェイル達の様に、今まさに自室に戻る客はさぞ珍しいだろう。

 フェイル達はとりあえず自室につくと、力を抜けた様に各々ベッドに倒れこんだ。リツカだけはその場で腰を下ろしている。


「ごめんなさい、他人の部屋でこんな脱力しちゃって」
「いや、バルログとの戦いがあったんじゃ無理もないよ。俺だってこうしてベッドに倒れずにはいられなかった」

 フェイルは脱力した体に力を入れて、座る体制にシフトした。アリファやヨシアもそれに続く。
 フェイルが振り向くと、二人はコクリと頷いた。

「じゃあ話をするよ。最初に言っておくけど、俺達の目的は生半可なものじゃない」
「勿論。そんな軽い目的だと察していれば、あなた達に同行したいなんて言わないわ」

 リツカがしかと目的の重さを感じているのを確認すると、フェイルは自分達の目的を話した。
 事は細部まで細かく。アリファとの出会いから始まり今の経緯まで。話終えた頃には時は夜を刻んでいた。



「……という事だ」
「この世界にそんな万象が起こっていたなんて。アリファという存在が悪心の結晶だなんて」
「とっくに浮世離れしてる。それを信じるかなんてのはリツカ次第さ」

 熟考するリツカをアリファは何とも言えない眼差しで見つめていた。
 ヨシアは首の骨をならすと、付け足す様にに呟く。

「まあ、こんな時代にそんな上手い話がある方が可笑しい。実際アリファは相当なベッピンだし、どこの幻想物語だっつう話だ。だが俺は信じたぜ。少なくともこいつ等の目は本当だったからな」

 ヨシアは両腕の指でフェイルとアリファを示した。
 そのまま両腕をあげて気伸びをしながら欠伸をする。潤う瞳で見るリツカは、既に決断している様だった。


「そうね……私もその話、信じるわ。だから一緒に連れて行って」
「もちろんだ! そしたら俺達はもう仲間だな」

 フェイルは笑みを浮かべた。リツカを微笑み返す。
 ルディブリアム至災の間を目前にして、協力な仲間が加わった。

「仲間か、そしたら改めて自己紹介するわ。短剣使いのリツカ=イタチよ。よろしく」
「こちらこそ。俺は銃使いのヨシア=ロダンだ。よろしく頼むぜリツカ=イタチ」

 リツカ=イタチと呼んだヨシアに本当の信頼感をリツカは覚えた。
 ただボインがイタチに変わっただけの話だが、それが何故か自分を仲間と認められた安心感にも感じた。

「俺は剣使いのフェイル=ディアン。夢は英雄、よろしく!」
「私は聖魔法使い……と言ってもヒールしか使えないけど、アリファ=ベルモンド。私の為にありがとう。そしてよろしく」

 
 フェイル達は新たな仲間の祝福に大いに盛り上がった。

「こうなりゃ今日は宴だ。酒注文すっぞ、酒!」

 フェイルは勢いよく室内に設置された飲食注文ボタンを押した。

「おい、俺達はまだ未成年だろ!?」
「あら、私は丁度二十歳だからお酒は飲めるのよ?」
「成年? 未成年? 気にすんな! 俺達はあのバルログを倒したんだ!」
「ねえねえ、お酒って美味しいの?」
「美味いしおまけに気分がスカッとすっぞ!」


 今宵は楽しい宴。未成年なんて気にするな。
 
 フェイル達が至福の一夜を過ごしたのは言うまでもない。
 また、初めて酒を飲むアリファが予想外の酒乱を起こしたのも言うまでもない。
 楽しい一夜に浮かれ騒ぎ、いつやら自然と眠りに着く。
 飛行船の飛行音が静かに鳴り響く内、気づくと朝は訪れてくる。空はもう、明るんでいる。









楽しい宴は早々と時を刻み行き、朝を告げる。

次回、ルディブリアム到着。


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アリファリング No.23 真実の母音

2010年03月15日 23:34



 フェイルが閉じた目を見開くと、そこには自分にヒールをかけるアリファの姿があった。
 思わずフェイルは飛び起き辺りを見回した。

「バルログは!? 倒したはずじゃ」
「馬鹿、何寝ぼけてやがんだ」

 すっとんきょうな様を見せるフェイルの隣でヨシアが呟いた。

「あれ、確かヨシアにヒールを……」
「あの後フェイル、気を失っちゃったんだよ。だからヨシアのヒールが終わった後、フェイルにヒールをかけてたの」

 そういう事か。とフェイルは息をついた。
 確かにフェイルは満身創痍を更に超える体力を使いきっていた。そのまま気絶するのも無理はない。


「にしても、あのナイスバディなターバン女は誰だ? 突如現れて助けてくれたらしいじゃないか」

 ヨシアは親指でマストに腰掛けるターバン女を指した。
 アリファもそれを疑問気にフェイルを見つめる。フェイルは暫く考えた後、答えた。

「わからない」
「あら、私がどうかしたの?」

 ターバン女はそれに気づいた様に、フェイル達に歩み寄った。
 ヨシアが「お前は誰だ」と問うと、ターバン女はくすりと笑った後、頭のターバンを取り始めた。

 ターバンがするすると解けていくと、胸程までの紫髪があらわになる。
 年はフェイル達より幾つか上だろうかといったところ。大人の美しさが彼女にはあった。
 ターバン女はその白いターバンをマフラーの様に首に巻くと、残りを使って髪を結える。
 紫髪は綺麗に結えられ、首からすらりと下げられた。



「何も名乗らずにご免なさい。私の名前はリツカ=イタチ。黄金の街ジパング出身の冒険家よ」

「そうだな、その胸だけは認めよう」
「何を認めるんだ!」

 フェイルの精彩あるチョップがヨシアに下された。天誅。
 アリファとリツカが残念かつ侮蔑的な目でヨシアを見ていると、ヨシアは前言を激しく撤回した。
 そんな事はさておき、フェイルがリツカに疑問をぶつける。


「聞きたい事があるんだけど、何故リツカはあのタイミングで戦闘に加わったんだ?」
「確かに私は戦闘の最初から上甲板の物陰に隠れていたわ。でも私があのタイミングで戦闘に加わったのは、じっくりと時を見定めていたから。敵は凶悪手配にも載るモンスター、バルログ。だから慎重に加わるタイミングを見計らったのよ」

「そうか。じゃあ何で俺達を助けようと思ったんだ?」
「助けようとか、そういうのとは全く別の概念で私は戦闘に加わった。単純に船を、乗客を、そして何より自分を護る為。あの場であなた達が戦っているのを見た時点で、そう決めたわ」


 場に絶妙な空気が流れる中、これまでの会話をヨシアが括った。

「まあ、リツカ=ボインの戦闘経緯はごく自然的な事だったってわけだな」
「そういうこと。けど私の名前はリツカ=イタチよ」

 ヨシアが巨乳好きだという事がわかったところで丁度、乗組員が上甲板上がってきた。
 相当な時間が経過しても船体に何も起こらないので、様子を見に上がってきたのだろう。
 余裕の表情で会話をしているフェイル達を見て乗組員が口をあんぐりとさせるのも無理はなかった。



「き、君達。確かこの船上に大型飛行ユニットのモンスターがいるはずなんだが……」
「それなら俺達が……フゴッ」

 真実を話そうとするフェイルをヨシアが口を塞いで止めた。
 口をフゴフゴとさせるフェイルに小声で意図を伝える。

「今ここで真実を話せば俺達はドンチャン騒ぎの的だ。俺達の目的はそんな事じゃないだろう?」
「た、確かに」
「リツカ=ボインが真実を話す事を望むなら、また別になってくるが」
「私もこの事は内緒で構わないわ。それとくどいけど、私の名前はリツカ=イタチよ」

 ヨシアは承諾を得ると、フェイルをアリファにパスして偽を述べた。


「よくわからないんですが、俺達が様子見にあがった時はもうモンスターはいませんでしたよ?」
「あれ……という事は無事船体から離れてくれたのかな? まさか……でも実際いないわけだし」

 乗組員は納得がいかない様だったが、暫く片手で頭を押さえて考えた後、事良ければ良しと目を見開いた。

「そうですか、それなら問題無いです。ありがとうございました」

 乗組員は景気よく敬礼すると、事は船内に伝える為、とりあえず船長室へと走っていった。
 フェイル達は安心すると、その場でしりもちをついた。

「とりあえず馬鹿騒ぎにはならずに済んだな」

 ヨシアが笑みを零し、青空を見つめる最中、アリファは隣にいるフェイルに小声で呟く。



「ねえねえ、聞きたい事があるんだけど」
「聞きたい事? 何?」
「ヨシアはリツカの事をボインボイン言ってるけど、私って胸ないのかな」

 突然、女の子ならざる質問がアリファから繰り出され、フェイルは戸惑った。
 どう答えればいいのか迷った末、素で自分が思っている心情を述べた。

「いや、アリファもボインだと思うけどな。ボインボインなんつって」

 やけに風を冷たく感じる二人だった。









男は大体、母音が好きです。

次回、リツカの存在は?


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アリファリング No.22 船上の女神よ勝者を示せ

2010年03月14日 00:11

 
 
 フェイルは霞み始めた目を擦り、バルログに剣を向けた。
 バルログも確かに深手を負ってはいるが、異常な生命力故、戦闘は可能らしい。

 一方、大技を使ったフェイルのマナポイントは底を尽き始めている。
 一発? 二発? 残り何回技が使えるだろうか。状況が状況だけに無駄打ちは許されない。

 両爪を振り上げるバルログに対し、フェイルは剣で応戦した。
 声を張り上げ、後ろに控えるアリファを護る為、慢心創痍の体に鞭を打つ。


 時間にして三十秒程だろうか、フェイルはバルログと一進一退の攻防を展開してみせた。
 しかし、出血の止まらぬフェイルはそこから除々に防戦へと入る。
 縦横無尽に襲い来るバルログの爪にワンコンマ遅れながら受け流す。それが精一杯になっていた。

 じわじわと後ろに仰け反り、詰められていく。
 フェイルは大賭けのパワーストライクを幾度となく繰り出そうと考えたが、踏み留まった。


 その一発を放ったが最後、フェイルの勝機は完全に絶たれるからだ。
 一縷の勝利を信じて、フェイルは時を待つ。

 が、その時。フェイルの背に外壁が着いた。
 決着。バルログは今までで一番の笑みを浮かべると右爪をフェイル目掛けて突き出した。

 アリファの甲高い叫び声が大空に響く。



 刹那、上甲板の物陰から頭部にターバンを纏った何者かが飛び出した。

「アサルター」

 呪文を唱えるとのターバンの突撃速度が急激に加速した。
 爪がフェイルに届く寸前、ターバンの右手に持つ短剣が勢いよく、バルログの残った右半身に突き刺さる。
 
 ターバンが即座に短剣を右に振り抜き、バルログの右半身を引き裂く。
 バルログは声にもならぬ奇声をあげると、脊髄一本で体を支える状態になった。


 突如の出来事に一番驚いたのはフェイルだった。目を丸くしてそのターバンを見つめる。
 
 頭部はターバンで隠れてよく分からなかったが、黒に近い灰色の忍装束ベースの装束を纏っているのは見てとれた。
 性別は膨れた胸部と丸みを持ちながら締まりのある体系から女だと容易に判断出来る。

 しかし、まだ素性の割れぬそのターバン女にフェイルが呆けていると、ターバン女は叫んだ。

「早くとどめを!」

 その一言でフェイルは我と状況を思い出した。今こそ絶好のチャンス。

「わ、わかった! シュレンベルクの聖戦よ。パワーストライク!」

 聖撃がバルログの胸部を貫いた。
 その一撃によって、ようやくバルログは意識を混濁させ、その場でよろよろと体制を崩す。
 外壁に近かったことも幸を成し、バルログは外壁に体を傾けると、そこから逆さになって飛行船から落ちていった。

 最早翼を使う事等全く叶わず、フェイルは外壁から海に落ちていくバルログを見続ける。
 そのまま何と考えもせずに、無意識の中、海しか見えない下の世を虚ろに。



「勝った?……」

 アリファがポカンと呟くと、フェイルははっと頭を上げてアリファを見つめた。
 確かに無事なのが確認出来た。ヨシアのヒールももう終わろうとしている。

 無我夢中で振り返って、ターバン女の方を見ると、ターバン女は短剣を腰のホルスターにしまっている。
 大分視界が霞んでいた。擦ってもちっともマシにならない。どうやら相当出血しているらしい。
 フェイルは途端に重くなる肉体を感じながら、その重さに歓喜した。それは戦いが終わった証拠なのだから。


「俺達の……勝ちだ!」

 フェイルは握った両腕を振り上げガッツポースをしながら叫んだ。
 そのまま大の字に寝そべると、ゆっくりと目を閉じた。

 勝者の優越。









期待の無かった登場あれど、勝利は勝利。フェイル今、優越す。

次回、ターバン女の素性。


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コメント返信


>りのさんへ

うおぉ!誤字指摘ありがとうございます。面倒で見直しをしていないので結構あるんですよね、誤字 (照)

小説を見て頂いて感謝の限りです。バルログ戦、いよいよ終わりました。

また少し間が入りますが、次は至災の間があるルディブリアムです。

目的地点ですからね、どうなるのかはお楽しみ。バルログ戦以上の何かがあるのは確かです。

アリファリング No.21 Checkmate

2010年03月12日 00:31


 
 勢いを見せるフェイルに不穏を感じたのか、バルログは途端に荒げて爪を振り回した。
 しかしフェイルは怒りつつも冷静さを保ち、縦横無尽に飛んでくるバルログの攻撃を剣で受け止めた。


「そう慌てるなって……コンボアタック」

 フェイルが呪文を唱えると、背後に魔法陣が浮かび上がる。その紋様、五つ。
 紋様はそのままフェイルの背後をゆるりと回転し続け、何か不気味なものを醸し出している。

「この紋様はな、それまでに自分が当てた攻撃の数だけカウントされているんだ。ちなみに上限値は5カウント」

 フェイルは受け止めていた剣を振り上げて、バルログの両腕を振り上げさせた。


「そしてこの紋様を消費する事によってフィニッシュアタックを発動する事が出来るんだ。ちなみに当然の話だが、紋様の数が多ければ多いほどフィニッシュアタックの威力は倍増する」

 フェイルはあいたバルログの腹部を狙う。が、それに気づいたバルログは咄嗟に足で応戦した。
 フェイルはそれを剣で流すと、惜しいと舌打ちした。

 バルログは未だかつて無い、異様ともいえる不安を本能で感じていた。

 これまでの戦いで自分がこれ程不安感を抱いた事もないし、今回もしかりだ。
 現時点までは明らかに自分の優勢で進んでいた。
 しかしどうだ、ヨシアに皮膚を焼かれてから戦況は一変している。状況が自分が有利なはずなのに。

 背中に浮かぶ紋様、フィニッシュアタックの存在。それ等がバルログの額にとめどなく汗を滲ませていた。



 暫し均衡が続いたが、バルログがそれに耐えられず勝負を仕掛けた。
 左爪をフェイル目掛けて根限りに振る。が、フェイルはそれを読み剣でいなした。

 が、バルログのその刹那、今度は右爪を振り下ろした。フェイルのそれを読んでいたのだ。

「この戦いの最中に読みを覚えたか。だが……!」

 フェイルはその右爪をハイキックで弾いたのだ。無論爪ではなく、腕を蹴ったのだ。
 いなすまではいかずとも、それで十分軌道を変える事は出来る。想定外の事にバルログは対処を失った。


「終わりだバルログ。お前の敗因はヨシアに炎弾を対処出来なかった事だ!フィニッシュアタック パニック!」

 背中の紋様が一つとなり、巨大な六芒星の紋様へと変わる。
 その力はフェイルの剣へと伝導し、フェイルがバルログの腹に一薙ぎ入れると
 バルログの腹部は龍をも切り刻まん様な大剣の一薙ぎの如く裂けた。

 詠唱破棄で尚この威力。流石に最大コンボカウントでのフィニッシュアタックは並の技とは一味違うものがあった。



 バルログは悲痛の叫び声をあげた。
 その場で倒れないまでも、暴れ狂っている。腹の傷が完全に背中まで貫通しているのが見えた。
 筋繊維から臓器まで薙ぎられ、その傷口は綺麗に両断されている。
 体の左半分が薙ぎられ、バルログの体は残り右半分で支えられている状態だった。かろうじて脊髄に損傷は無いらしい。


 が、それと同時にフェイルも危険に立たされる。

 倒れろ、起き上がって来るな。
 最早今後の手立て等もなく、先刻からくらっている腹部の出血は止まっていない。
 目が霞みを覚え始めている故、これ以上の長期戦は明らかにこちら側の不利を示す。

 フェイルは一縷の望みをかけてアリファの方を見たが、やはりヒールはまだ完了していなかった。
 もう少しといった所だが、ヨシアが戦線に復帰するには……。
 頼む、そのまま沈んでくれ。


 そう切に願うフェイルだったが、現実は悪魔を味方した。
 限界だと思われたバルログだったが、血管が自然止血され始め、筋繊維が自己再生を始めている。
 何という回復力だろうか。フィニッシュアタックで後一歩まで削ったにも関わらず、今勝機は絶たれようとしている。

 フィニッシュアタックを宣言する前とは立場が逆転し、呼吸を荒げるフェイル。
 アリファも焦り、ヒールを懸命にかけるがヨシア復活には未だ時間が足りない。

 バルログの不敵な笑みが、フェイル達の敗北心を強く煽った。









勝利を背に向けられた敗北。盤面は詰まれた。

次回、詰んだ盤面、ルールに縛られるな!


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アリファリング No.20 五撃

2010年03月09日 00:26



「西方の炎犬と東方の灼猫よ、相対なれど北方を向け。ファイアバーナー!」

 ヨシアのうねる様な声の刹那、銃口から炎が勢いよく放射される。
 その範囲はかなり大きく、バルログの巨体を包み込んだ。

 詠唱も加えられ相当な高温なのかバルログは叫び声をあげてその場で手を振り回した。


 じだんだした攻撃はやみくもではあったが、放射するタイプである故、近距離を余儀なくされたヨシアはそのやみくもに直撃した。
 
 爪による引っ掻きで胸部をやられると共にヨシアはアリファのいる方へと飛ばされた。
 勢いよく船体の外壁に直撃し、吐血する。
 急いでアリファが駆け寄ったが、ヨシアはそれを制止してアリファの前に立った。


 アリファが叫ぶ。

「ヨシア!?」
「お前は……護る。フェイル! 今ならお前の攻撃が通るはずだ」

 ヨシアの言う通り、バルログの表面を覆っていた硬質な皮膚はファイアバーナーによって焼けきっていた。
 ようやく見えない勝機が姿を表した。ここからが反撃開始だ。



 フェイルは声を張り上げながら、バルログに斬りかかる。
 硬質な皮膚を持っていた故に、防御を知らないバルログは防御もせずにその一撃に受けて立つ。

 が、結果は先刻までとは反転し、剣はバルログの筋部をしかと引き裂いていた。
 生まれてこの方感じた事の無かった激痛にバルログは身を仰け反らせた。

 完全に流れは逆風を示している。


 そうフェイル達が感じた瞬間だった。

 この戦いで学習したのか、バルログは怒の感情をその場、忘れ去り標的をフェイルからアリフェへとシフト。
 口元で薄く笑むと、直ぐにその表情は力のあるものへと豹変し、前方に魔方陣が出現する。

 この時、フェイル達は標的のシフトに気づくか最早遅い。
 バルログは翼を大きく広げ両拳を腰で強く握り締めると、魔方陣から黒色の波動弾を繰り出した。
 そのサイズはフェイル達の体躯と変わらない程でアリファが受ければそのダメージは致命的だろう。


 フェイルは剣を突き出して波動弾の軌道を逸らそうとするも、コンマ間に合わず、波動弾アリファに襲い来る。
 
 アリファは思わず目を瞑った。波動弾を避ける術は残されていない。
 人は眼前に物体が迫る時、眼球の損傷から……否、現実から逃れる為、目を瞑る。

 神に祈る時も然り、人は目を瞑らずして現実からは目を逸らせない。目が有り続ける限り、現実は姿を消し等しないからだ。



 英雄への偉業は

「終わらねえよ」

 ヨシアが繋いだ。


 アリファが閉じていた目をゆっくり開くと、確かにそこには現実が提示されていた。
 だがそれは想定とは違う現実。自分を庇って背中に波動弾を受けていたヨシアの姿だった。

 しかしアリファと目を見合わせるヨシアの顔にはどこか幸福なものがあった。
 
 アリファがそれを理解し難ねながら涙を落としていると、
 ヨシアは自分の相棒ともいえる銃をその場に落とし、人差し指でアリファの涙を拭ってやった。

 絶対に引き金を狂わせない様、血に触れない様にしていた人差し指で。


「背中の傷は恥じゃねえ、護る男の勲章さ。だから……泣くな、俺はちょっと休憩するだけだから。後は頼んだぞ、フェイル……」

 ヨシアはその場で倒れ込んだ。どうやら傷によるショックで気を失ったらしい。呼吸はあり、命に別状は無さそうだった。
 しかし、アリファは自分に背中を賭してくれたヨシアに対し、泣くなと言われた事を守れなかった。


「ごめんね、涙が止まらない……。でも今度は私が貴方を助ける番だから」

 アリファはそう言うと両手を倒れたヨシアにそっと乗せた。

「万緑の神秘、エルフィニティよ。金平糖を宝石箱へと誘わん如く、生命に緑化を。ヒール」

 詠唱と共に、アリファの場に緑の魔方陣が現れ、ヨシアの傷が塞がれていく。
 
 フェイルはそれを見て驚嘆していた。回復魔法とは誰にでも使えるものではなく、
 何らかな特殊な系列を持っている者にしか使えないとされているからだ。最も、アリファはその枠内に入っているといえるが。


「お前、回復魔法なんか使えたのか」
「うん、最果ての泉が与えてくれた、私に対する唯一の正。それがこの回復魔法、ヒール」

 アリファはさながら女神の様な微笑みを浮かべていた。
 
 だが、フェイルは安穏とした表情を浮かべるわけにはいかない。ここは戦場、前方にはバルログ。
 バルログはアリファこそ倒し損ねたが、ヨシアが戦闘不能になったのを良しとした様な表情を浮かべていた。



「おい、バルログ」

 後を任せたヨシアの言葉を脳内でかみ締めながら、フェイルはバルログに睨みをきかせた。
 バルログは復讐心という、自分が持ち得ない感情を見せるフェイルに疑問を持っている。


「お前にこの戦いの豆知識を教えてやるよ。俺がお前に今まで当てた攻撃の数を」

 フェイルは吐き出した息を急激に吸い込みきると、次の瞬間怒号をあげた。

「五撃だ!! そしてお前はヨシアの炎弾で硬質の皮膚を失った。五撃の意味を教えてやるよ……俺のフィニッシュアタックで!」









ヨシアの託す勝機。流れはフェイルの最後(ラスト)へと繋がる。

次回、五撃の意味とは? フィニッシュアタック極まるか!?


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アリファリング No.19 勝機を見つけろ!

2010年03月06日 14:11


「やけくそでも攻撃するしかない」

 何も攻撃をしなければ、バルログからの攻撃をただ受ける体制になる。
 それを避ける為にヨシアは間髪を入れず攻撃の流れを作った。通常弾を銃口に装填する。


「紅きにウェルダンの灯火を。ダブルファイア」

 高速に放たれたニ連弾の弾丸がバルログの頭部にヒットする。
 しかし無論、バルログにはダメージ等無く、それはバルログの奮いをフェイルからヨシアにシフトするものでしかなかった。

 バルログは標的をヨシアに変更し、咆哮をあげた。


「お前の相手は……俺だ!」

 背を向けたバルログにフェイルは渾身の一振りをバルログの頭蓋に当てた。
 これも無論、効くはず等無いが、また標的がフェイルへとシフトした。

 この一撃は相当にバルログの癇癪に触れたらしく、ヨシアへは最早見向きもしていなかった。


「馬鹿、自分から的になるな!」

 ヨシアは叫んだが、フェイルはそれに頷かなかった。

「俺が的にならなくてどうする。キングじゃないんだ、クイーンがとられたら負けなんだよ」

 ヨシアはそう言われてようやく冷静を取り戻した。
 そうだ、この戦いにおいて最優先すべきはアリファの命。勝利等二の次である。

「そうだな……俺達ポーンがクイーンを護るのは当然の役目だ」

 アリファは身を呈してまで戦っている二人に、ただ合掌をして勝利を祈った。



 バルログの鋭利な爪がフェイル目掛けて振られる。
 それは剣とも変わらぬ程であり、フェイルが剣に受け流すと金属音の様な鈍い音が響いた。

 二本の腕から、スナップを効かせて襲い来る……形容するならば鞭の如き二刀の剣。
 それは回避や受け流すというフェイルの防御手段を持っても、こと足りるものではなかった。


 一閃。フェイルの腹部から血が流れる。貰った一撃はただの爪にして余りに甚大。

「痛えなあ。どうすりゃいいんだ」

 フェイルは反撃に剣を一薙ぎバルログに入れるも、やはり効かない。これでは戦う以前の問題だ。


 一方ヨシアもアリファを前方で護る立場故、下手に手を出せなかった。じっくりと至高の策を練る。
 バルログにおける最難関はその硬質すぎる皮膚。故に、攻撃が筋部に届かない。

 物理は不可能、ならば……? その時ヨシアに妙案が一つ浮かんだ。
 この妙案はリスクを伴ううえ一か八かだったが、このままでは負けは確定している事もあり、ヨシアは勝負に出た。


「アリファ、この場を少し離れるからバルログの動向に警戒しとけ」

 ヨシアは銃口に何らかの弾丸を装填すると、バルログ目掛けて走っていった。
 それを見たフェイルは異様な状況を察して叫んだ。


「アリファから離れてどうするんだ、戻れ!」
「確かにポーンがクイーンを護るのは定石、だけどポーンだって行き詰まりの盤面に活路を見つけりゃ飛び込むさ!」
「まさかお前……見つけたのか? 勝機」
「見つけたさ、問題は硬質な皮膚。ならば皮膚を焼けばいい、火に硬質は意味をなさない」


 ヨシアの銃口に装填されていたのは、炎弾であった。
 完全にフェイルにのみ気を集中していたバルログは急襲に対する反応が遅れた。

 その隙につけこんでヨシアは詠唱を唱える。









絶望の最中、見つけた勝機! 勝てる……か?

次回、勝機を転機に、勝負は加速する。


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アリファリング No.18 万事休す

2010年03月05日 23:35

 

 身構えるフェイル達に対し、モンスターはその姿をあらわにした。
 
 それは顔つきこそゴリラに近い間の抜けた顔だが
 そのはちきれんばかりの肉体と大きな翼が大きなインパクトを醸し出している凶悪そうなモンスターであった。


「お、おい……あれはバルログじゃねえかよ」

 フェイルは単に凶悪そうだという印象を受けていたが、ヨシアは違った。
 顔には驚嘆の色が浮かんでおり、バルログと呼ばれたそれがいかに恐ろしいのかを物語っていた。


「ヨシア、そんなに強いのか? そのバルログってモンスターは」

 無関心な態度をとっているフェイルに、ヨシアはとんでもないと一喝入れた。


「強いなんてもんじゃない、地球防衛本部の凶悪手配に載っているモンスターだ。船上の悪魔と呼ばれていて、奴から襲撃を受けて生還した船は未だに無いという」

「おいおい、そりゃ強いなんてレベルじゃないだろ!?」
「そういう事だな、だから乗組員達は妥協したんだ。見逃して貰える奇跡を信じて」


 フェイルは思わず唾を飲んだ。バルログはこちらに気づいたようで、既に威嚇体制を取っている。
 その様を見て、フェイルはふっと笑みをこぼした。ヨシアはその意図が理解出来なかった。

「何笑ってんだ? 気でも狂ったか?」
「なわけないだろ。英雄っていうのはさ、いつでも無謀なんだよ」

 フェイルはディランの勇姿を胸に浮かべ、いよいよらしくなってきたと張り切っている。
 それを見てヨシアはため息をついた。


「これはお遊びじゃねえんだぞ、英雄ごっこは他所で……」
「英雄ごっこはもう終わった! これから俺がする事は英雄の偉業の1ページだ!」
「……ごっこは終わりか。乗ったぜその偉業! ただし主役はこの俺だ!」


 フェイルは威嚇しているバルログめがけて走った。
 ヨシアはアリファの前に立ち、護る体制で後方に構えた。

 威嚇しているバルログを見ながら、銃口に散弾を装填する。

「一丁喰らっとけ。インビジブルショット」


 勢いよく放たれた散弾はバルログにジャストミートした。
 たが、バルログは効いた様子を見せていない。どうやら分厚い皮膚が威力を無効化しているらしい。


「銃が効かなきゃ剣の出番だろ」

 フェイルは剣を縦に振込み、首筋に当てる。衝撃が散弾より断然高いだろう。
 が、しかしそれでもバルログに首筋には薄い切れ込みさえ出来なかった。余りに皮膚が硬質すぎるのだ。


「こうなりゃ剣技だ。ヨシア、煙幕を頼む」
「ガッテン!」

 ヨシアは素早く煙弾を装填する、それを即座に撃ち放つと、フェイルとバルログの周囲は煙に包まれ視界が閉ざされた。
 しかし知能の低いバルログに対し、フェイルはバルログの呼吸や影から場所を特定出来る。
 この時点でフェイルの有利は確定していた。



「シュレンベルクの聖戦よ。パワーストライク」

 聖なる光を宿した強撃がバルログの腹部に襲い掛かる。
 尚且つ、フェイルはバルログの隙をついた間に技の固有詠唱を唱え、技の威力を倍増させている。

 技にはそれぞれ固有の詠唱が存在し、大技程詠唱も長い。
 しかし、詠唱を唱える事で技の威力は倍増し、より大きなダメージを与える事が出来るのだ。


 技の衝撃音がヨシアとアリファのいる所まで伝わってくる。
 これなら手傷ぐらい負わせただろう。そうヨシアが油断がしたその時だった。

 バルログの口部からフェイル目掛けて火球が放たれたのだ。
 その衝撃で煙が消滅していく最中、ヨシアはフェイルの安否を心配した。

 が、フェイルはバルログが攻撃してくる事を察知していたのか、それを何とか回避していた。


「よく火球が飛んでくるなんて察知出来たな」

 ヨシアが感心した様に呟くと、対してフェイルはヨシアの方を見ながら、動揺の色彩を表情に浮かべていた。
 回避したのにこの表情。ヨシアは疑問を抱いたが、それは直ぐ晴れた。同時にヨシアの表情にも動揺が現れる。


「俺の詠唱付加したパワーストライクでさえ、かすり傷が出来る程度なんて……」

 煙が完全に消滅すると、バルログは余裕の笑みを浮かべていた。一方フェイルは憔悴している。
 腹部に当てた渾身の一撃でさえ、バルログの肉体にはかすり傷を作るので精一杯だったのだ。

 先刻戦ったゴーレムと同等……いや、それ以上の防御力。
 それに加え素早い動きに攻撃。これが凶悪手配クラスのモンスター。


「ゴーレムと違って素早いから目も狙えない。困ったなこりゃ」

 ヨシアも完全にお手上げだった。フェイル以上の攻撃力はヨシアには無い。
 広がる絶望。アリファも有効な攻撃手段を失った二人に希望を見出す事はままならなかった。

 よぎる不安、安直すぎた挑戦は本当の無謀だったのだろうか?


 万事休す。









英雄の偉業は此処から!……幸先絶望?

次回、あがくフェイル達、活路を切り開け。


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コメント返信


>名無しさんへ

これは……あさぎさんのコメントかな? 分からないので特定してはコメントしませんが。

今回こそは頑張って完結させます。モバゲーで小説力を上げての復帰なので!

まあ、実の話、構想予定では100話超えちゃいそうなんですけどね (でもコツコツ頑張ります

アリファリング No.17 Limit of answer

2010年03月03日 00:23


 
 それは余りに突然で、アリファの脳内から唐突に言葉を奪った。

 体をかき去って行く風さえも、今のアリファの昂りを抑える事は出来ない。
 心の臓が鼓動を早くしていく、気持ちを静めようとすればする程、心拍数の上昇を意識してしまう。


 確かに最初は恋愛感情というのには程遠いものであった。
 何というか、心の不安を和らげてくれるパートナー。故に、心の許せる人物。ただそれだけ。

 だが今は違う。最初に会った時とは決定的に違う何かが確かにある。
 フェイルが自分を好きだという確証をヨシアを通じて得た事は、その違いを更に加速させた。


 何なのだろうか? この感情は。好き? 或いはパートナーの域を単に一線超えただけの存在?
 誰かに教えて欲しい。この表現のしようが無い感情は何なのだ?

 理解の範疇を超えてやまないそれの答えを誰か……。


「わからない」

 苦悩の末に出したアリファの結論は、心の後ろから誘い来る逃げ道だった。
 ヨシアは現段階のアリファにとっては、その結論が精一杯なのだろうと悟った。
 
 今アリファが抱いているのは何という感情なのか? それは現時点では誰も知る事は出来ない。
 それはフェイルにとって幸の結果かも知れないし、不幸の結果かも知れない。
 
 だが、今言える事があるとすれば、アリファにとってフェイルは一線をがした存在。
 ヨシアはそれが知れただけでも十分だと判断したのだ。



「そうか。それならそれもまた、今における答えだ。焦る必要は無い。じっくりと見定めればそれで」
「うん……何だか本当の私に一歩近づけた気がする。ありがとうヨシア」
「いいってことよ」

 この時、ヨシアは絶対言う事が出来なかった。
 アリファが自分に好意を抱いていたという、奇跡とも言える超絶的な展開を期待していたという事等。

 無論、それがフェイル真意と照らし合わせるという事に対する、ほんの浅はかな副題であるという事は当然であるが。



「ま……まあ、フェイルも寝てる事だし、事のついでに今から船内のカフェでお茶でも。勿論、俺のおごりで……ってドワァ!?」

 ヨシアが浅はかな副題を膨らませようとしていると、事は突然に起こった。
 
 船体が激しく揺れたのだ。並々ならぬ衝撃が船体にはしる。何かと衝突した?
 ヨシアは飛行船では起こりえるはずも無いそれに疑問を抱きながら、バランスを崩したアリファを手で支えた。


「大丈夫か?」
「うん、ヨシアが支えてくれたお陰で」
「一体、船に何が起こったんだ? 尋常な揺れじゃなかったぞ?」

 ヨシアが呟いた刹那、乗組員の叫び声が聞こえた。必死に荒げながら状況の非常さを伝えているのがわかる。


「船体に大型飛行ユニットのモンスターが激突して来ました! 危険ですので皆さんはすみやかに船内へ避難を!」

 乗客は慌てふためきながら詰まった道をかけ、船内へと逃げ込んで行く。
 ヨシアは冷静になりながら、不安を抱くアリファの手を握ってやった。船内には逃げ込まない。


「私達も逃げましょ!」
「今、大型飛行ユニットのモンスターなんて乗組員が倒せるレベルじゃない。誰かが戦わないと船は墜落する」

 ヨシアが額に一粒、汗を滴りながら状況を説明した。
 その時、下からフェイルがヨシア達のいる上甲板の上へと上がってきた。
 ヨシアは握ってやっていたアリファの手をそっと離す。


「寝てたはずだろお前、俺達は只今デート中だ」
「あんだけ揺れりゃ起きるわ! それに何がデートだ、どうせお前がアリファを半ば強引に誘っただけだろ」
「強引にって失礼な言い方だな、デートはデートだ」
「もう、分かったから二人とも静かにして! それと私はヨシアとデートした覚えはないわ」

 二人の争論をアリファが止めた。
 渋々それを止めるフェイルに対し、ヨシアはアリファの一言に少し落ち込んでいる。

 場が一旦冷めていると、また荒げた乗組員の声が聞こえた。


「モンスターの詳細を確認した所、私達の撃退出来るレベルではないと判断したので、下手に刺激を与えずモンスターが船体から離れるのを待つ事にします。私達も避難しますので、皆さんも出来る限り船内の中心部へ避難して下さい!」

 それ以降、乗組員の声が聞こえる事は無かった。ヨシアがふっとため息をつく。


「それで船体を急襲したモンスターをやり過ごせるわけが無い。苦肉の策だな、墜落するのがオチだ」
「墜落って……なら、どうすればいいんだよ!?」

 慌てたフェイルの様子を見て、ヨシアは人差し指を一本突き出した。

「どうするかって? 簡単だ。俺達がそのモンスターを倒すしかないだろう」


 その直後、背後の船首から例の大型飛行ユニットのモンスターの影が現れた。
 フェイルとヨシアは即座に船首方向を振り向く、アリファにはそのフェイルの背中が今までより一段大きく見えた。

 今まで何度も信用させてくれたその大きな背中、それが今、また大きく。


「フェイル、準備はいいか? モンスターが現れるぞ!」
「当たり前だ! どんな奴でもかかってきやがれ!」









決まらぬ答え、だが今はそれで良しと、突如急襲!? その正体は?

次回、決戦始動! ようやく始まる戦闘描写の激化を見逃すな!





コメント返信


>ないとぎるさん

応援ありがとうございます! 数少ない応援が自分の糧ッス!

プロフィールはGTOという漫画の主人公「鬼塚 英吉」の画像ですね。

GTO大好きなんです、機会があったら是非! (何のお勧め紹介だこれ(笑)

アリファリング No.16 Chest that becomes hot

2010年03月01日 17:40



 受付所に着くと、ヨシアが受付員に尋ねる。

「すいません、三人部屋の鍵を貰いたいんですけど」
「三人部屋ですね。では201号室の鍵をお渡ししますのでどうぞ」

 受付員は鍵をヨシアに渡すと、一礼した。
 フェイル達は201号室向けて、ホールの階段を下っていく。二階程下った所で、少し進むと201号室が見えた。


「ここか」

 ヨシアは鍵を使って扉を開くと、中に入っていく。
 フェイルとアリファもそれに続いて入ると、中には少し余裕のあるスペースにベッドが三つ並べておいてあった。


「このベッドは俺な!」

 フェイルは勢いよくベッドに飛び込んだ。スプリングが軋む音を立てながらフェイルの体を受け止める。
 小さく数回バウンドした後、フェイルの体はふかふかベッドに浅く沈んだ。

 ヨシアは子供臭い行動に出たフェイルの肩を叩いたが、反応が無い。
 焦って体を反転させると、フェイルは既に熟睡していた。ヨシアはとりこし苦労だとため息をつく。


「飛び込んで寝るまでどんだけ早いんだよ……。まあ、今日はせかせかとした一日だったしな」
「このまま寝かせてあげましょ」

 にこやかな笑みを浮かべるアリファを見て、ヨシアはある事を感じていた。
 フェイルも熟睡しているし大丈夫かと、ヨシアはアリファの肩を叩いた。

「少し話したい事がある。上に出て風にでも当たりながら話をしないか?」
「え? いいけど」

 アリファは突然の事に少し戸惑っていたようだが、ヨシアは信頼し、それに応じた。



 ヨシアとアリファは室内を出て船の上、すなわち上甲板の上に出た。
 そこは子供達が空の下遊んでいたり、カップルがムードに浸っていたりと、憩いの場になっている。

 二人もカップルの様に壁面に肘をついて、風に当たる。
 ローブ姿の少女とボサボサ髪の少年なんて、少々奇抜な組み合わせであるが、雰囲気は出ていた。


「なんかこれってカップルみたいね」
「俺とカップルみたいにになるぐらいならフェイルとなりたかったろ」
「そ、そんな事……!?」

 アリファは顔を赤らめながらそれを否定した。ヨシアは上機嫌な笑いを浮かべている。


「まあ照れるなよ、冗談だって。まあこれも話す事には少し関係するんだけどよ」
「そう、それよ。話って何?」

 誤魔化す様にヨシアの言葉にすぐ言葉を返すアリファに、ヨシアは単刀直入に尋ねた。


「そうだな、じゃあ分かり易く言うぞ。フェイルはお前の事が好きだ」
「な……え!? フェイルがそんな事言ってたの!?」
「いや、そうは言ってなかったが、雰囲気見てりゃバレバレだ。お前も感づいてたろ?」

 ヨシアの言う通り、確かにアリファもフェイルの感情には感づいている節があった。
 いつから? そう言われれば最初からだろうか。

 アリファが結晶から誕生してその時から、フェイルはアリファに熱心だった。
 一目惚れ? それは違うだろう。最初は熱心だったと言うべきだ、悲しきアリファという存在に対して。

 しかしその熱心はおのずと愛へと変わっていった。そこに境界線が無かっただけの話、というのが正しいだろう。



「その顔を見る限り、やっぱり感づいてはいたって感じだな」

 アリファはその場で黙りこんだ。赤くなった顔を今は一時でも早く風に当てて冷やしたい。
 ヨシアはそれを見て言葉を続ける。


「実は出発前日、お前が寝てる時にあいつとも話しをしたんだ」
「え?」

 アリファは動揺した。前日といえばヨシアのボロ民家の時。その時に何かがあったというのか?

「その時あいつはこう言ったんだ」

 ヨシアは過ぎ去って行く風と雲に目を向けながら、ゆっくりと息を吸った。アリファはそれをじっくりと見つめている。


「それでも俺はアリファを護りたい。俺はアリファが好きだから」

 ヨシアの放ったその一言は、アリファの視覚を錯覚へと追い込んだ。
 ヨシアの姿が被るのだ、フェイルの姿と。アリファには感じられた、フェイルがそう言ったその時を。

 アリファはぎゅっと胸を手を掴んだ。熱い、こんなにも優しい言葉がこの世界に存在しているのだと、初めて知った。


「風にこれだけ吹かれているのに、どうして? 体が……胸が熱いよ」

 目をつむって両手で体を締めつけるアリファを見て、ヨシアは奥深いような、何とも言えない表情を浮かべる。

「だからこそ逆に問う。アリファ、お前はフェイルの事が好きか?」









迫る核心、アリファの心境は何を示す?

次回、心境決着。その時船は……!?





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