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アリファリング No.35 二度目

2010年04月30日 14:56

 フェイルはヨシアに視線を向けると、端に寄るよう目で指示した。
 ヨシアにはフェイルがどれ程の決意を持って、アリファと死闘を行おうとしているのか等、
 しる由もなかったが、ここまで来れば信用するかしないか故、ヨシアはリツカを連れて端へと身を引いた。
 壁によりかかり、体制をゆるめると、世界の顛末が下るこの闘いに見入る。

 こと仕掛けたのはフェイルだった。飛び込み、剣先でアリファの喉下を突きにかかる。
 アリファはそれを不体勢のままはじくと、体勢を立て直し距離を取り直した。
「体との連結がまだ鈍イ」
「フェイル、アリファはまだ悪心と完全に連結出来ていない。攻めるなら今だ!」
 ヨシアが一気呵成に、と叫ぶが、フェイルにその声は届いていないようだった。
 交える剣から、その者の気持ちが伝わるように、フェイルにもその現象が起きている。
「何もないんだ」
「何を言ってるの? フェイル」
「何もないんだよ」
 割り込みに入るリツカさえ無視し、フェイルは伝わった気持ちに酷く同調している。
 感情に重なるように身を委ね、口をあんぐりとさせた。
「何もないんだよ、気持ちが。ぽっかりと開いた穴のように、寂しい、寂しいって」
「何もいらない。喜び、怒り、哀れ、楽し、何もいらナイ。ただ悪に」
 助長するように呟くアリファに、フェイルは目を見開き、毛立つ。
「純粋に悪。何も求めていないんだよ、何も!」
 完全に冷静さを失っていた。
 これまでの本能を、目的を持って挑んできた悪とは全く異なる、悪故の悪。
 味方と呼ぶにも相応しくなく、敵と呼ぶにも相応しくないその存在に、フェイルは戸惑った。
 その隙を見て、アリファが目をギラつかせ、駆け、距離を縮めると剣を振るう。
 殺気を感じたフェイルがその剣を避けると、剣は地面に突き刺さる。
 驚くべきは刺さった剣が容易に抜けない程まで深くめり込んでいることだった。
「何ていう力だよ。体と完全に連結されたらこんな奴止められねえぞ、フェイル、今殺るんだ!」
 剣が抜けずに、焦るアリファの表情がフェイルの瞳に映し出された。
 決意は最初からしていた。後はそれを実行するだけ、世界の安穏はすぐそこに。

  ◇

「アリファには余り肩入れしすぎるな。それがお前の為であり、アリファの為だ」
「それでも俺はアリファを護りたい。俺はアリファが好きだから」
 旅立ちの前夜、あの日決意は出来たはずだった。
 護るということは時として、対立するということ。正すこともまた、護ることだと。
 だからこそフェイルはあの時、そう言った。自分にはそれが出来るという自信があったからだ。
 好きだからこそ対立出来る。それこそが本当の愛だと、上辺の空論に身を委ねて。

「おやすみ」
 寝たふりをしながら、ヨシアが眠るのを待ってから、立ち上がり、
 アリファの隣に立つと、フェイルしゃがみ込み、熟睡するアリファの顔を小一時間眺めていた。
 リスへ向かうあの夜にあった安穏な休息。飽きることなくフェイルがアリファの寝顔を見つめていると、
 アリファは気持ち良さそうに頬を和らげながら、寝言を呟く。
「フェイル」
 フェイルは驚いたように竦んだが、それが寝言だったと察すると、ほっと息をついた。
 しかし同時に、自分の名前を呼んでくれたことに対する喜びにも満たされていた。
 寝ていても自分を頭の片隅に置いてくれている。
 この時だった。フェイルがアリファのことを今まで以上に心から愛したのは。

  ◇

「何でだろうなあ」
 フェイルは剣を振り被ると、そこでぴたりと静止した。
「今はどんな錘を着けられても動ける気がするのに、心の錘が重すぎるんだ」
「馬鹿野郎!」
 ヨシアは怒号をあげたが、それと同時にアリファの剣は地面から抜け、アリファは剣を振り被る。
 ヨシアもリツカも、声にならない叫びをあげるが、フェイルは微動だにしない。
「皆ごめん、俺やっぱり英雄にはなれなかった。世界よりも何よりも、アリファのことが大切だから」
 躊躇いもなく振るわれる剣を、フェイルは何の恐れもなく迎え入れる。
 しかし、剣先は途中から方向を変え、その脾腹を貫いたのはアリファ自身だった。
「何ダ……と」
 これはアリファ自身、意識してはいないらしく、途中から自らに矛先を変えた自身が一番驚いていた。
 フェイル達も状況を把握出来ずにいると、急にアリファが頭を押さえ込み、悲鳴をあげる。
 悲鳴が数秒を静止したかと思うと、今度はよろめきながら立ち上がった。
 貫いた腹部から大量の血を流しながら、フェイルと目を合わせる。
 この時フェイルはようやく気づいた。アリファの目が元のように澄んでいることに。
「貴方と初めて出会った時とは、180度状況も意味も違うけど」
「アリファ、お前まさか」
「私を殺して」



二度目の私を殺して。同じ言葉であれど、意味は180度異なる。

二日連続更新っすよ。本当にこというと、先日捻挫してしまいまして、
今日朝から病院に行ったんですが、学校がスポーツテストだったので、
一日見学から逃れる為に学校サボりました。
いち学生として不健全ですいません。フリーなんです、今日フリーなんです(涙)。

応援よろしくお願いします。
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アリファリング No.34 最も愛した者として

2010年04月29日 22:06

 リヴァンは激痛に喚くが、虚ろになる意識を堪えながら剣で我が身を支えた。
 短く、かつ激しく呼吸を漏らすと、憎悪に満ちた眼光をフェイルに向けた。
「信念だと……勝利とは、強者を裏切らぬ現実だ」
「それは違うな。勝利とは、渇望の現れだ」
 フェイルは上を向いて、呼吸を確保しながら異論を唱える。
 言葉を選びきれぬリヴァンに、更に言葉を浴びせる。
「この結果がその証明だ。誰よりも勝ちたいと思った奴がくくる信念は、生半可には破れないよ」
 反論に転じれぬ結果論をぶつけられたリヴァンは、目を煮えたぎらせながら歯を軋ませた。
 約束されていたはず勝利が、信念という根性論によってうち破られる。
 こんなにも強さとは脆く、天地を翻すものなのかと、言葉にならぬ喚き、呻きをあげ、苛立ちを吐き出していく。
 全てを吐き出しきった時、リヴァンにただ残っていたのは、勝利に対する渇望、ただそれのみだった。

「かくなるうえは!」
 リヴァンは足元をゆるりとふらつかせると途端、アリファに駆け走る。
 フェイル達は思わず叫んだが足が出ない。油断と共に、肉体疲労も相当に達していたのだ。
 言うならば、これもまた信念なのだろう。手段を選ばぬ執念という形の信念。
 しかし、アリファに近づいたリヴァン、アリファの状態を見たフェイル達は共に驚嘆を隠せなかった。
 アリファの黒翼が、常時の倍以上に膨れ上がっていたのだ。
 リヴァンもここまでの膨張は予測の範囲外だったのだろうが、一番に目を丸めたのはフェイルだった。
「何だよあれ、何でアリファはあんなことになってるんだ」
 フェイルがその要因を知る由はなかった。
 黒翼暴走の原因はフェイル自身が倒れたことにあるのであって、
 倒れたフェイルは暴走を見ることを出来なかったからだ。
 ヨシアはそれを見て、目を、口を重くしながら唾を飲み込むに息を吸い
「アリファの黒翼が暴走したのは、お前が倒れたことで悪心が膨張したからだ」
 現実を伝えた。

 フェイルは動揺をあらわにした。口をわなつかせる。
 自分のせいでアリファに確かな異常が現れている。それは逃れない現実。
「おいお前、今の立場わかってるのか?」 
 しかしそれに浸る間さえ与えない様に、リヴァンは黒翼に包まれたアリファめがけ剣を構えた。
「やめろ!」
「こいつを殺られたくなければ、自害しろ」
 悲痛にも叫ぶフェイルに対し、リヴァンは無情な視線をフェイルの剣に向けた。
 それはその剣で自らの命を絶てということを示し、絶対的に皮肉と呼べる表情をリヴァンはあらわにした。
 しかしそれには確かに発言力が存在し、動揺をした直後のフェイルにとっては憔悴の要因となる。
「自害……」
「そうだ、自害だ自害。早くしろ」
 リヴァンが剣先を黒翼に添え、フェイルをせかせると、フェイルは手段を失い、剣先を自らに向けた。
 しかし、自害しようとするフェイルを、ヨシアは殴り飛ばし止める。
 フェイルは敵意を持った眼差しをヨシアに向けると叫ぶ。
「邪魔をするな! これは俺の責任なんだ」
「それが本当に正しい選択なのかよ!」
「ああそうだ、だから止めるな」
「ふざけないでよ! そんな選択を誰が望んでるっていうの!」
 腹から、喉から叫ぶリツカの訴えによって、フェイルはようやく自分が保つべき冷静を取り戻した。
 自害したところで誰がそれを立派だったというのか、否、誰も言うわけなどなし。
 選ぶべきは、この危機的状況から、如何にしてアリファを救出するか。
 フェイルがそう考えを纏めたその時だった。

「私に刃を向けるノハ誰?」
「なに?」
 アリファの黒翼が開くと、リヴァンはイヴの妃剣もろともアリファの中に呑みこまれた。
 黒翼ががっちりと閉じ、また球状になると、骨の砕ける様な鈍い音が球内に篭る様に響く。
 黒翼が再度開くと、そこには見るも無残な、全身の骨が砕かれたリヴァンの姿があった。
 ぬけがらの様にアリファから滑り落ちたリヴァンは、生きてはいないことが容易くわかった。
 イヴの妃剣を手にしたアリファは目を開く。
 しかしその目はいつもの様に明るく澄んでおらず、黒く淀みきっていた。
「アリファ?」
 半ば放心気味に呟くフェイルに、アリファは自然なながれで言葉を返す。
「そうよ、私はアリファ=ベルモンド。ただし、悪心の方のね」
 しかしその口元からは、何かしら侮蔑の様なものが感じ取られ、
 アリファは最早アリファでなくなったということを示していた。
「これは想定出来なかった。悪心の暴走なんて。でも、最悪のパターンだな」
 ヨシアは銃を構えた。しかしフェイルはそれを制すと、自分が剣を構えた。
「元はと言えば、俺からの始まりだ。けじめも俺につけさせてくれ」
「お前、本当にアリファを殺れるのか」
 ヨシアがもった不安はヨシアにアリファが殺せるのか、ということだった。
 リツカも同様の疑問を抱いた様を示している。一瞬、戸惑うフェイルだったが、それは本当に一瞬であった。
 敵になるとは想定していなかったが、もしもアリファが死んだ時を、
 フェイルは旅の初日、ヨシアと話し、けじめをつけていたからだ。
 肩入れはしていた。アリファのことは好きだった。だが、敵になった以上倒すのみ。
 非情だがシンプルな理論に対し、フェイルは決断を下していた。
「アリファ、お前が道を踏み外したのなら、その顛末へ導いてやるのも俺の役目だ。最も愛した者として」
「同情? 友情? 愛情? 戯け」
 しかと剣先を向けるフェイルに対し、アリファも剣を構える。
 粗く言えばタイマン。世界はそれに託された。



更新に間が開いてすいませんでした。悪い癖が(汗)。
佳境なので頑張って更新します!

応援よろしくお願いします。

アリファリング No.33 信念

2010年04月17日 13:17

 攻撃体勢を取るフェイル達に対し、リヴァンは剣先をフェイル達の喉下に合わせた。
 それはさながら、戦いの初局と同じ光景であり、今回もまた膠着状態が続いていた。
 眼球をそのままに動かせず、淡々と続く沈黙に、両者の傷口から滴る血がさも悠長に流れていく。
 指輪の止血作用を持って、戦闘を続行出来たフェイルだったが、その傷は最も深く、
 滴る汗と共に、息を僅かに大きく吐かずにはいられなかった。

 刹那、無言でリヴァンがフェイルの背後を奪う。
 ヨシアとリツカが声にもならない様で制すが、追いつくはずもなく、無常に剣が振るわれる。
「見えてるぜ」
 フェイルは構えた剣を後ろに流すと、斬り込むリヴァンの剣を受け止めた。
 これを好機とリツカがリヴァンに斬りにかかるが、それを素早く剣を戻し防ぐ。
「背中を見せていいのか? 三対一だぞ」
 振り向いたフェイルが間髪入れず剣を振る。
「五体ってのは意外と便利なものでね」
 リヴァンは足を後ろに振るうと、フェイルの胴体を蹴った。
 傷口に触れたフェイルは思わず後ろに仰け反る。
 勝ち誇った様を見せるが、それは直ぐに失われ、変わりに口が半開きになる。
「フェイルが言ったろ三対一って。余所見してんじゃねえよ」
 ヨシアが放った弾丸が、リヴァンの横腹を貫く。
 その場に倒れそうになるが、滅多打ちを恐れ、覚束ない体勢で距離を取った。

 リヴァンは剣を支えにし、体勢を立て直すと、
「馬鹿な、何故俺の動きが見えた! そこまで連係が上手くいく!」
 感情を動揺と共にぶつけた。その息は荒げ、剣先は定まっていない。
 刃こぼれした様な、粗い殺気を飛ばしながら、フェイル達を睨みつける。
「何でだろうな」
 フェイルが言葉を零す。ヨシアとリツカも同じ感情を示していた。
 剣先を整えると、ごく自然な様に答えた。
「諦めねえと思ったら、負ける気もしなくなった」
 フェイル達は一斉に間合いを詰める。
 まだ感情のメトロノームが振り切れたままのリヴァンは、
 何という活路もなく、ただその場しのぎに技を放つ。
「ソウルブレイド」
 飛ぶ斬撃が襲い来るが、意思が乱れていれば、避けること等容易い。
 難なく避けると、フェイルはリヴァンに斬りかかった。
「シュレンベルクの聖戦よ。パワーストライク」
 聖撃がリヴァンの剣を弾くと、続けざまにリツカの短剣とヨシアの弾丸が、開いた隙間を狙う。
 しかし、リヴァンは鈍重な眼光を取り戻すと、それを防いだ。
「俺は強い、故に負ける道理が無い!」
 喚き散らすリヴァンを他所に、フェイルは腰を低く屈める。
「わかったよ。それは25年前の大戦争から変わらない、世界を貫くもの」
 リヴァンの剣の及ばない位置から、フェイルは剣を振り上げると、
 リヴァンは腹部から胸部にかけてが、大きく引き裂かれる。
「信念だ! 諦めない気持ちを持たないお前に、勝利の女神は微笑まない」



更新に間が開いてすいません。
見ての通りクライマックスです。ここからも熱い!

応援よろしくお願いします。

あらすじ力の強化

2010年04月15日 23:32

久しぶりになります。
毎日更新なんて口ばかりですいません。

多忙っていうのがあったんですけどね、それとは別に少し「あらすじ」を作る勉強をしてたんです。
まあ勿論、管理人の小説は趣味の領域なので、洋書の多読とかそんな大冒険ではないのですが(汗)。

ちょっとあらすじの基本というか、型というか。
そんなものが詳しく紹介されているサイトがあったので、読み漁っていただけです。
アリファリングがまだ完結してないのに何やってるんだ、と。

でも、こうして基礎を学んでみると、いかに自分の作っていた物語が不器用というか阿呆というか
全然だったんだなぁという事が身に染みてわかりました。アリファリングも然りで。

とまあ、路線逸らして何を豪語しているんだという訳ですが
アリファリングが終わったらとりあえず試験的にそこまで長くない作品を作ってみようと思います。
勿論、今度は学んだ手法を用いて。感想など頂けると参考になります。
まだ始まってませんが(笑)。

アリファリングは打ち切りませんよ、今クライマックス入るとこですし。
正直言うと、終わらせたい気持ちもクライマックスなんですけどね。
これだから小説書きとしていつまでも三流以下なんですけどね……。

気を取り直して、ということで今後はまた高ペースで更新していきたいと思います。
いきたいと。うん……はい(汗)。


応援宜しくお願いします。

アリファリング No.32 此処からが勝負だ

2010年04月09日 00:14

 リヴァンは間合いを作り、リツカに攻め込む隙を与えない様にすると
 逆足を使って顔面を靴先で蹴り、首を靴底で踏み、ヨシアを痛めつける。
 しかしヨシアはそれに怯まずリヴァンの足を掴み続ける。
 例え鼻から血が流れようと、首が赤く腫れあがろうとも、薄れゆく意識等考えもせず。
「絶対離すなよ」
 白目を剥き出しにするヨシアを見て、リツカは耐え切れず、リヴァンに飛び込んだ。
 リヴァンはすかさず間合いから切り込みを入れると、リツカの腹部が切り裂かれる。
「残念、女は自ら斬られに来たぞ」
 ヨシアは虚ろな意識の中、血を流すリツカを見て、こと切れた様に手を離した。
「俺は何も護れねえのか」
「そうだな、そしてお前は自分も護れない」
 リヴァンは剣を振り上げた。倒れているヨシアの心臓に狙いを定める。
 それを見てリツカは無我夢中で静止に入った。
 しかしリヴァンはリツカの傷口を足で蹴飛ばす。
 リツカは悲痛な叫びを上げながら、唱える様に言葉を漏らした。
「誰か……ヨシアを」
「誰もいねえよ」
 リヴァンはリツカを見ると、高笑いを上げた。

  ◇

 流れる血を感じながら、失ったはずの意識が今確かにある。
 フェイルは気づくと、至災の間ではなく、岩山に囲まれた場所にいた。
 広い空間の真ん中には、新緑の大きな大木が聳え立っている。
「龍の谷奥地、ナインスピリッツ。最終決戦に相応しい」
「父さん!」
 フェイルの視界に入ったのは、死んだはずの父、アラン=ディアンの姿だった。
 しかし此方のは声に気づいていない、というより此方の存在に気づいていないらしい。
「本当に此処でいいのか? お前の墓場は」
「履き違えるなよ、此処はお前の墓場だ」
 アランの前に立っていたのは、リヴァンに何処かしら風貌の似た人物だった。
 それを見てようやくフェイルは状況を把握した。
「俺は大戦争の最中にいるのか。父さんの前に立っているのは恐らくジンガラム=ベールドール」
 フェイルは息を呑んだ。自分が何故この場にいるのかは分からない。
 アラン達に何故自分の姿が見えないのかも分からない。しかしこれだけは分かる。
「少なくとも今、歴史上最高の戦いが始まろうとしている」
 アランとジンガラムは互いに構えを取る。
 その構えには一縷の隙も無かったが、先に仕掛けたのはアランだった。
「リアンベールを聖唱し、喉を引き裂け、掻き毟れ、意味を知れ。ブランデッシュ」
 聖なる光を宿した二連撃を仕掛ける。
 ジンガラムは冷静にそれを剣でいなすと、即座にアランの背後を取る。
 斬りにかかるが、アランは読んでいた様にそれをしゃがんで避けると
 同時に剣を振り上げカウンターを仕掛ける。
 ジンガラムは掠りながらもそれを避け、そのままアランの腹部を狙う。
 まさに一進一退の攻防戦。積み重なる掠り傷がじわじわと動きを鈍らせる。
 先に深い一撃を入れたのはジンガラムだった。
 胸部に傷を負ったアランはよろめくも体制を立て直し、剣を構える。
「しまった、刹那の遅れがとんだ痛手だ」
「勝負あったな。降伏でもするか?」
「降伏? 馬鹿言え。勝負は諦めない限り終わらない」
「詭弁だな。戦況を見れば、誰にでもこの先の勝者は予測出来る」
 ジンガラムは高笑いを上げた。
 フェイルは戦況を物静かに見守っていたが
 体に温もりを感じると、既にこの世界から下半身が消えている事にようやく気がついた。
「この温もりは何だ?」
 温もりの先を辿っていくと、その原点はアリファから貸して貰った指輪にあった。
 何か体が底から癒される様な、そんな感覚に襲われる。
「どうやら俺は、まだ諦めきれないらしい」
 フェイルは消え行く最中、圧倒的不利な状況立たされながら
 自らの勝利を疑わない父の勇姿を目に焼き付けた。
「此処からが勝負だ、ジンガラム!」

  ◇

「リアンベールを聖唱し、喉を引き裂け、掻き毟れ、意味を知れ。ブランディッシュ」
 リヴァンがヨシアに剣を突き立てんとしたその時
 背後で倒れていたフェイルが起き上がり、リヴァンの背中に聖なる斬撃をニ撃入れる。
 リヴァンの背中は罰点に斬れると、そこから血が噴き出した。
「馬鹿な! お前は再起不能にしたはず……」
「アリファが貸してくれた指輪が救ってくれたんだ。最果ての泉が悪心と共に託した回復能力が微弱ながら流れ込んでいて、俺の出血を止めてくれたんだ。油断したのはお互い様だったな。ヨシア! まだこの勝負、諦めてないだろ」
「誰が何時諦めたって?」
 ヨシアは自分の頬を手で叩いて意識を覚ますと、銃を構え直した。
 リツカもヨシアが立ち上がったのを見て、短剣を構え直す。
 これで全員が傷持ちで振り出しに戻った。フェイルは息を吸い込む。
「此処からが勝負だ、リヴァン!」



英雄から諦めない事を学び、フェイル復活。
ようやく与えた大きな傷。振り出しに戻った戦局はどう揺れ動く?

応援宜しくお願いします。

アリファリング No.31 絶対放さねえ

2010年04月07日 17:01

 リヴァンは剣を振り上げると、フェイルを倒した時と同様の鈍重な殺気を放った。
 ヨシア達はそれを見て、再度視界を逸らさぬ様に構える。
「フォウリルの煌く翼。靡け、伝え、奮い飛ばせ。ソウルブレイド」
 リヴァンが詠唱を終え、剣を振るうと、光の刃がヨシア目掛けて飛んできた。
 予測していぬ飛ぶ斬撃にヨシアが為す術を持たずにいると、横からリツカがそれを弾いた。
 金属が衝突したかの様な甲高い音が至災の間を響き渡る。
 リツカはヨシアにアイコンタクトを取ると、リヴァン目掛けて飛び込んだ。
 それに合わせてヨシアは装填した煙弾をリヴァンの足元に放つ。
 リヴァンの視界は、放たれた煙幕によって奪われた。
「煙幕か。足音に耳を澄ませば、何の意味も持たない」
「果たしてそうかしら?」
 リツカの足音が止むと、何かがリヴァンの足元に落下した。
 最初は落下物が判断出来なかったリヴァンだったが、状況からそれが何かは直ぐに察せた。
「小癪な……!」
 爆音と共に、煙幕が吹き飛ばされた。
 リツカがリヴァンに放った爆弾が爆発したのだ。
 しかしリヴァンは上空に飛ぶ事によってそれを回避していた。それを見てリツカが飛び込む。
「輪、縁、伝、蘭、論、端。サベッジスタブ」
 素早く織り成される六連撃がリヴァンを襲う。リヴァンはそれを剣で全て受けきった。
 笑みを浮かべると、余裕を見せてその場に着地する。
「俺を空中にあげたのは良案だが、これが実力の差だ」
「北方の氷猫と南方の凍犬よ。相対なれど東方を向け。クーリングエフェクト」
 リツカとの攻防の最中にリヴァンの背後を取っていたヨシアは、不意打ちを仕掛けた。
 余裕を見せた事もあり、次の反応に出遅れたリヴァンは氷の息吹を足に受け、移動を封じられる。
「しまった!」
「好機はやらないと行った傍から余裕見せてんじゃねえよ」
「貴方の事だからまた斬ろうとしても、また剣で防ぐんでしょう?」
 リツカはリヴァンの足元に手持ちの爆弾を全て落とした。
 ヨシア達は急いで端に逃げ込むと、爆弾は爆発に爆発を重ね、大爆発を起こした。
 しかし至災の間は全く揺らぐ事無く、火薬臭がヨシア達の鼻をつんとさせる。

「フェイルは巻き込まれてないのか!」
「大丈夫、範囲外よ」
「そうか」
 ヨシアは大きく息を吐くと、銃を下ろした。
 逆の手で髪を掻き毟ると、今度は落ち着いた様に息を吐き出す。
「終わったな。後はアリファをどうにかしねえと」
「それとフェイルの手当てもね」
 リツカも安堵し、短剣を下ろそうとしたその時だった。
 後ろから突如リヴァンが迫り、ヨシアの背中に剣を突き刺す。
 リツカが理解しないまま本能的に短剣を奮うと、リヴァンは剣を引き抜きそれを回避した。
 剣を引き抜かれたヨシアは、吐血するとそのまま倒れこんだ。
「余裕というのは、油断とは違うものだ」
「何故あの爆撃を受けてまだ立っていられるの!」
「爆弾が爆発すると同時に、ソウルブレイドをぶつけさせて貰った。まさか只の爆撃で倒せるとでも?」
 リツカの顔が青ざめた。リヴァンが戦闘の最初に放った「油断するな」という言葉に嫌に染みる。
 リヴァンは額を伝ってきた血に気づくと、裾でそれを拭った。
「ソウルブレイドで完璧に防ぎきれなかった辺り、お前等も中々健闘したと言える」
「健闘じゃない、私達は勝つのよ! サベッジスタブ!」
 素早く六連撃に転じたリツカだったが、リヴァンはそれを容易くかわすと、リツカの背後を取る。
 防御の追いつかないリツカを斬り込もうとするリヴァンだったが、足に違和感を感じそれを停止した。
「汚い手で俺に触れるな」
 血みどろの手で靴を掴むヨシアを、リヴァンは逆足で蹴飛ばす。
 しかしそれでも尚、ヨシアは靴から手を放さない。
「小賢しい」
「この手は絶対放さねえ。放したらリツカがやられちまう!」
「だったら何処まで耐えられるかな」



激戦も一瞬が事を窮地に追い込む。
死に物狂いのヨシアが見せる最後の粘りが生むのは?

応援宜しくお願いします。

アリファリング No.30 忠告しておく

2010年04月06日 17:00

「忠告しておく、油断するな」
 リヴァンは剣先をフェイル達の喉下に合わせた。
 未だかつて感じた事が無い程の鈍重な殺気がフェイル達の本能を刺激する。
 この局面で場の展開は停止した。膠着状態が続く。
 フェイル達が攻め入る機を幾度伺った事だろうか。見当たらない故、攻め入れない。
 慎重に時を浪費していく。ヨシアの額を汗がつ伝ったがヨシアはそれを微動だにしない。
 もし此処で目を右上にちらつかせればリヴァンは途端に迫り来るだろう。
 それとない仕草さえ出来ない、呼吸が嫌に苦しく感じる。
 フェイルは溜まった唾を飲み込んだ。

「油断するなと、言ったはずだ」
 瞬き等という次元ではない、視覚が機能しない程の高速。
 喉下に突きつけられた剣を反応で防ごうとしたフェイルだったが
 リヴァンはすかさず対象を腹部に切り替え、フェイルの腹部を切り裂いた。
 フェイルは口をおぼろげに動かしながら、倒れていく。
 何か言いたそうなその表情は、事が刹那だったという事を示し
 地に伏したフェイルの腹部からは血液が無残にも流れ出していた。
 誰も目から見ても、フェイルが戦闘続行不可能な事等、明白であった。

 ヨシアは腕を下ろし、事が信じられない様を晒す。
 リヴァンにとってこれは完全に好機であったが、ただ笑みを浮かべるだけだった。
 これが余裕なのかと悟りながら、リツカは腕を絶えず下ろさない様に気がけた。
 この局面では無いだろうが、ヨシアが狙われた場合、これで即座な追撃が出来る。
 だが、一番冷静を保てていないのはアリファだった。
「嫌あああああああああ!」
 柄にもない様な悲痛な叫びをあげると、身を縮こまらせる。
 心臓の鼓動が乱雑になり、我狂った様に呼吸を荒げると、それに黒翼が反応しだした。
 アリファの鼓動に合わせ、黒翼が本当に僅かずつではあるが成長している。
 アリファは頭を抱え込むと、黒翼で我が身を包み込んだ。
 それはまるで怪物の卵の様で、今までのアリファには無かった何かが確かにあった。

「大丈夫か!」
 ヨシアがアリファに駆け寄る。しかしその最中、リヴァンが剣を突きつけヨシアを止める。
 ヨシアは銃を振り上げたが、狙いを定める前に剣を胸元に添えられた。
「今お前を倒す事は容易いが、俺をもっと楽しませろ」
「楽しみたいなら俺を止めるな!」
「そう激情するな。今アリファの中では怒り、憎悪の悪心が芽生え、それが黒翼を成長させている」
「なら尚更止めねえと」
「魔女は子供を太らせてから食らう。常套手段だと思わないか?」
「お前、最初からそれを狙ってフェイルを」
「それは違う、偶然だ。しかし悪心女が人間、しかもこんな雑魚に好意を抱くとは笑止」
「俺の仲間をなめんなよ!」
 ヨシアが頭に血管を浮かび上がらせながら、銃弾を放った。
 しかしリヴァンはこれをなんなく回避し、距離を取る。

「二度目だ、そう激情するな。死に急ぎたいのか」
「死ぬのはてめえだ!」
「落ち着きなさい!」
 リツカが叫ぶと、ヨシアはようやく冷静を取り戻した。
 激情が収まる事で場が静かになり、自分がどれだけ喚いていたのかが理解出来た。
 ヨシアは深呼吸すると、リヴァンを慎重な目で見る。リヴァンは相変わらずの余裕を示していた。
「女ァ、良い判断だ。それに免じて作戦を練らせてやる。精々俺を楽しませろ」
「それはありがとう、有効に使わせて貰うわ」
 リヴァンは不意打ち等しないという事を、剣を突き下ろして示した。
 それを確認し、リツカはヨシアに近寄る。リヴァンには聞こえない様に小声で語りかける。
「作戦を練りましょ」
「練るったって、即席で作戦なんか作れるかよ」
「深く考える必要はないわよ。私達はこの時点で既に好機を得ている」
「好機?」
「そう、この局面では不意打ちが出来る」
「お前中々ずる賢いな」
「勝てばいいのよ。恐らくリヴァンは私達が慎重に作戦を練ると考えているわ、だからその裏をついて即座に不意打ちを仕掛けるの。私の加速技、アサルターでリヴァンに一撃加えた後、貴方の加勢も加えて一気に攻め込むわよ」
「わかった」
「いくわよ、アサルター!」
 リツカはその場で瞬時に反転すると、速度を加速させ攻撃を仕掛ける。
 突如の不意打ちで反応し損ねたリヴァンは下ろした剣を上げれない。
 リツカの短剣は意図も容易く、リヴァンの胸部目掛けて突き出された。

「不意打ちか、面白い作戦だがその速度じゃ俺は打てない」
 リヴァンは、リツカの短剣を左手で巧みに捕らえていた。
 空いた右手で剣を振り上げると、リツカの脳天に照準を合わせる。
 武器を放す事は戦闘の放棄に等しいが、命には已む無しとリツカが手を弛めようとしたその時
 リツカによって隠れた死角から距離を詰めていたヨシアが姿を現す。
「紅きにウェルダンの灼熱を。決断に刻め。トリプルファイア!」
 燃ゆるが如く放たれた三連の弾丸がリヴァンに迫る。
 リヴァンは他に手段を選べず剣を突き出すが
 詠唱による速度増加と近距離発砲が重なり、一発が頬をかすめた。
 更にその隙を見て、リツカはリヴァンの喉下目掛け、短剣を振り上げる。
 これも体制が整わず、状態をずらしたが逆の頬にかすめた。
 分が悪くなったリヴァンは剣を振り、リツカに距離を取らせた。
 ヨシアは銃を構え続けていたが、隙が無くなったのを見て、体制を整える。
「詠唱攻撃で間に合うかどうかは賭けだったが、それでも頬をかすめただけか」
「そこから更に間髪入れずに追撃したのに、それもまた逆の頬をかすめただけ」
「だけ? 調子に乗るな、かすめただけでも賞賛だ。もう好機はやらんぞ」



フェイルを事欠くも、激戦必死。
膨らむアリファの悪心は止まらない。

応援宜しくお願いします。

120円の温もり

2010年04月03日 00:54

 日曜日の朝、新社会人の赤谷 頭也(せきたに とうや)は布団に包まっていた。
 つい数ヶ月前社会人となり、数少ない休日を睡眠に勤しんでいたのだ。
 実家は然程遠くない程の距離にあるが、一人暮らしをしている。
 これは両親に迷惑を掛けたくないという頭也の謙虚心であり、親孝行の形でもあった。

 現在彼女募集中であるが、実際構う程の余裕がある訳でもない。
 だからこそこういう休日を効率的に過ごそうとしているのだが、そういう訳にはいかないらしい。
 1DKの肩幅狭い部屋にチャイムの音が鳴った。

「ふぁい……今出ます」

 重苦しい足つきで立ち上がると、頭也は左足で右足を掻いた。
 大欠伸をすると、口を微かに開けたまま玄関の戸を開く。
 すると、赤谷の目を覚ます様な甲高い声が響いた。

「お兄ちゃん!」
「留美じゃないか」

 頭也の視界に映ったのは、今年中学生になった妹の姿だった。
 バッグを肩に掛けは目元に泣きじゃくったのか跡が残っている事から
 朝から親と喧嘩してきたのだろうという事は察せた。
 頭也は溜め息をつくと、留美の肩を軽く叩いた。

「汚いけど入ってけよ」

 留美は笑みを浮かべ、靴も並べずに中へと入っていった。
 頭也はそれを咎めず靴を並べてやると、台所から麦茶を取り出して留美に出してやった。
 留美はそれを勢いよく飲み干すと、その場に寝そべった。
 
「ありがとう、喉渇いてたから丁度良かった」
「どういたしまして、また父さんと喧嘩でもしたのか?」
「ううん、今回はお母さん。些細な事から口論になっちゃって」

 頭也は頭を掻いた。親子とは傍から見ればどうでもいい事で喧嘩するものだ。
 仲が良い事の裏返しでもあるが、だからこそ面倒でもある。
 そのとばっちりで休日を休み損ねた頭也は一番の被害者であるが
 文句を言っても何も返ってくるものは無く、渋々親に電話で留美がここに来ている旨を伝えた。

「母さんには俺が話といたから、夜までには戻って謝れよ」
「……うん」

 留美は余りに乗り気ではなかったものの、結局選択肢はそれしかなく首を縦に振った。
 それに納得すると、頭也はまた布団に潜り込む。
 が、留美がその上から飛び込んできた。

「寝ちゃ駄目だよ、どこか連れてって」
「俺は疲れてるんだよ、寝かせてくれ」
「お願い、連れてって」
「どこに行きたいって言うんだよ」
「遊園地かな」
「寝れば夢の中で行けるかも知れないぞ」

 無愛想な頭也の返事に留美は憤怒した。
 布団の包まっている頭也を足で数度蹴ると、眉間にしわを寄せる。

「痛いな馬鹿!」
「お父さんに言いつけるわよ」
「そ、それはちょっと」

 父親とは愛娘には息子以上に優しいもので、ましてや社会に出た息子の方等持たない。
 社会人となっても尚、家族に縛られる事に頭也は不満を覚えつつも、この場はそれに従うしかなかった。
 留美の顔色を伺う様に布団から出ると、口元とひくつかせる。

「今日はいい天気だなあ」
「よし決まり!」

 満面の笑みを浮かべる留美とは裏腹に、今月の生活難が確定した頭也は
 今日という日が何故休日だったのかを恨みながら、車の鍵を手に取った。

  ◇

「着いたぞ」

 エンジンを切ると、頭也と留美は外に出た。
 目の前には観覧車を筆頭に様々なアトラクションが見えている。
 それ等に思いを馳せながら、留美は受付へと軽い足取りで向かう。
 フリーパスを二枚購入すると、すっかり軽くなってしまった財布に喪失感を覚える。
 頭也はマップを広げ、アトラクションを確認した。

「じゃあまずは手始めに」
「ジェットコースターね」
「は、いきなりそんなの乗るか」

 ジェットコースターが苦手な頭也は反発したが、留美の鋭い目つきを前にその意志を失った。
 マップを留美を手渡すと、留美は遊園地の名物である高速ジェットコースターを指差す。

「これで決まりね」
「本気で言っているのか、高速だぞ高速」

 頭也はまだ来て間もないにも関わらず、意気消沈した。
 順番待ちをしている最中、注意書きを見て尚一層後に引きたくなったが
 中学生になりたての少女を一人並ばせる訳にもいかず、絶叫を体験する事となった。
 その後は放心状態と化した頭也に遠慮してか、留美が絶叫系を強要する事は無くなったが
 それでもコーヒーカップで回転に酔う等、ハプニングはそれなりにあった。
 しかし、楽しめた事に変わりなく最後に二人は観覧車を選んだ。
 観覧車が上がっていく最中、夕日が二人を照らす。

「何だかんだ言って、遊園地も面白かったな」
「でしょ、お兄ちゃんもたまには遊ばないと」
「そうだな、お前もちゃんと母さんに謝るんだぞ」
「うん、だからまた遊ぼうね」

 頭也は微笑みを返した。
 下に降りて行く観覧車に寂しげな感情を覚えながら二人は残り少ない感傷に浸る。
 観覧車が下に降りた後、頭也は自販機を見つけると、留美と一緒に駆け寄った。

「おごってやるよ」

 頭也が自販機を指差すと、留美はそれに飛びついた。
 夜風が吹き始め、冷え込み始めた事も重なり、二人はホットドリンクを選んだ。
 留美はココアを、頭也はコーヒーを購入する。
 車に戻るまでの帰り道、二人は120円の温もりを感じながら遊園地を後にした。
 二人を照らす夕日は今にも沈み、月が月明かりを照らそうとしている。



クリックが世界を変える。

曇天(リメイク版)

2010年04月01日 18:46

 探せばどこにでも溢れていそうな商業系の小会社。
 冷房の少しばかり独特な音と、社員の打ち鳴らすキーボードの音が社内を響かす。

 灰崎 純(はいざき じゅん)はそこで勤務する20代前半の平社員だ。
 特別高い学歴を持つ訳でもなく、優秀な成績を収めている訳でもなく
 おおよその人間とさしてさして変わらない、というのが最も相応しい形容だろう。

 灰崎はふうんと鼻息を着くと、横目で時計を眺めた。
 耳を澄まさねば聞こえもしないはずの秒針の音が、やけに大きく聞こえる。
 淡々と刻まれるそれが12の方を指した時、灰崎はデスクトップの電源を切った。

 首を左右にこきこきと鳴らし、席から立ち上がる。時針は5を指していた。
 それを見た他の社員も、おのおの欠伸をするなり、電源を切るなり、安堵を見せる。
 5時はこの会社の勤務終了時刻だ。
 灰崎をネクタイの紐を緩めると、ロッカーから荷物を取り出した。

  ◇

 外に出ると、灰崎は曇天に気がついた。
 曇った空は、平凡たる灰崎に何か圧を掛ける様に重く乗りかかる。
 さして生きる意味を感じていない灰崎にとって、それは不安とも呼べるものだった。
 
 始点と終点を繋ぐ中点、つまりは人生。それに何の意味を見出せようか。
 どうせ終点が存在すると感じてしまうと、中点の存在があまりに無駄に感じてくる。
 唯一、存在の意味を確認させてくれるのは、彼女の若子(わかこ)だ。
 同年代の彼女には、一般の目から見ればさして普通の存在だろうが
 灰崎にとってはその普通が全て、好ましく感じられた。それが愛における哲学でもあるわけだが。

 雨が降るやも知れない気だるい不安と共に、灰崎は車に乗り込んだ。
 エンジンをかけると、うるさいマフラーの音が聴覚を掻き鳴らした。
 親族から貰った車だが、廃車する予定だった車だけに、やはり乗り心地は良くない。

 灰崎はポケットから煙草とライターを取ると煙草を加え、ふかした。
 手動の窓を開け、煙を車外に出すと、アクセルを踏んだ。
 国道に乗り、備え付けのプレーヤーから90年代テイストの音楽が鳴らす。

 気分を良くしながら、近道がてら裏道に入り込むと、車はめっきり少なくなった。
 所々に設置されている信号機を余り意味をなしていない。
 しかし交通の規制は守りながらスピードを上げていく。
 煙草を灰皿に潰し、青信号を確認しながら窓を閉めたその時だった。

 灰崎の視界に突如高校生と思われる少女が飛び出してきた。
 耳にイヤホンをはめて音楽に夢中になり、赤信号にも気づいていないのだ。
 灰崎は一瞬自分の心臓制止したかと思った。目を丸く見開きながら、ブレーキを根限りに踏む。
 教習所では急停止するには連続して踏む方が早く止まると習ったはずだが
 そんな事等、頭のどこか隅に飛ばされていた。

 摩擦跡を激しくつけながら、車は少女の僅か手前で停止した。
 灰崎と少女は共に、心の臓を共有しているかの様に早々と呼吸する。
 無心の中にぼんやりと浮かんでくる意識。灰崎は閉めた窓を急いで開き直すと、頭を出した。

「君、大丈夫だったか!」
「危ないじゃないのよ、人殺し!」

 少女は憤慨した様な形相を見せ付けると、青に変わった信号を足早に渡っていった。
 当然、灰崎はこんな返答等想定しておらず状況を把握出来なかったが、それは直ぐに怒りへと変わった。

「何が人殺しだ、悪いのはそっちだろ!」

 もういない少女に激怒すると、灰崎はハンドルを両拳で叩いた。
 確かに今回の事は、信号無視した少女が悪いのであって、灰崎には非が無い。
 灰たる社会の矛盾に、灰崎は苛立ちを覚えずにはいられなかった。
 眉間にしわを寄せながら、残りの帰宅路を速度超過で走り行く。

  ◇

 駐車場に車を止めると、灰崎は叩きつける様に車の扉を閉めた。
 鍵を手に取り、自分で見ても貧相だと覚える様なアパートに向かう。

 灰崎は矛盾と欲望の耐えないこの社会に不満を隠せない様でいる。
 やはり中点の存在にどれほどの意味があるか等、理解出来ない。
 始点と終点が既に存在しているなら、中点なんて無くても同じではないのか。

 灰崎は曇天の空を見上げると、そんなナイーブな感傷に浸った。
 純粋過ぎる故に直面する苦悩に、目を曇らせながら自分の番号の扉に立つ。
 何という意識を持たないまま鍵を開け、中に入るとそこには予想だにしない光景が待っていた。

「誕生日おめでとう!」

 クラッカーが鳴った。部屋には不器用ながら飾りつけが成されており
 小さなテーブルには所狭しと手作りであろうケーキが置かれていた。
 こんな事を内密で行ってくれるのは唯一の生き甲斐である彼女、若子以外に居るはずがない。

 予想通りの姿を見て、灰崎は言葉を失った。自分の誕生日をいつから忘れていたのだろうか。
 それより、こんな身近にあったはずの幸福を、いつから忘れていたのだろうか。
 下らない事を下らないと言い切り、曇天の中に不安を押し込み
 中点の彩りこそが始点と終点を輝かせるという事さえ忘れ、自分は何をしていたのか。

「ありがとう」

 灰崎の表情に笑みがこぼれた。
 幸福なんてごく身近にある。だからこそ苦悩を前にそれを忘れてはいけない。 
 曇天の狭間から日差しが照り出した。



クリックで世界が変わる。




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