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蜉蝣エスカピスト No.4

2010年05月08日 23:04

「何で俺の名前がわかった」
「私にあなたのように、世界の条理から外れてしまったものの情報を頭の中で得ることが出来るの」
「世界の条理から外れた? 何言ってんだあんた」
 信也は理解しかねるように、目を細めたが、優人は思わず目を逸らした。
「貴方はもう薄々気づいてるんじゃないの? 優人。自分がこの世界で過ごすべき人間じゃなくなったことに」
「な、何を言ってるんすか。世界で過ごすべきじゃない? 馬鹿馬鹿しい」
 額に汗を滲ませながらごまかそうとする優人を見て、藍は後ろに指示を出した。
 一人はそれに頷くと、自前のカバンから野球ボールサイズの鉄球を取り出し、優人に投げた。
 優人はそれを慌しげに受け取る。

「何すか、これ」
「野球ボールサイズの鉄球。中身はビッシリよ。それを思いきり握ってみなさい」
「はっ! 鉄球を握ったって何も起こるわけねえじゃねえか、なあ優人!」
 信也は馬鹿にするような態度を取ったが、優人は黙って鉄球を見つめた。
 不安が的中しないことを願いながら、それに握力を込めるが、その不安は現実のものとなる。
「嘘……だろ」
 信也はその光景を信じられないように見ていた。無理もない。
 優人が握った鉄球が、亀裂を帯び、その場で砕けたのだから。
「人間が鉄球を握力で砕けるわけがない! 中身がスカスカなんだろ、なあ優人!」
 黙り込む優人に業を煮やし、信也は胸倉を掴み上げた。
「その通りだって言えよ! 鉄球砕きましたってアピールでもしてえのか!」
「鉄球は、確かに本物だった。信也、俺はおかしくなっちまったのかな」
「いえ、決して貴方はおかしくなったわけじゃない。人間として壁を超えたのよ。私のように」
 藍は信也に胸倉を離させると、信也の肩に手を乗せた。その手には深い何かを感じさせられる。
「不条理の歯車は、廻り始めたの。もうあなたはこの世界に生きられない」

 照らし出す太陽が、嫌に眩しく感じられる。
 優人も同じではあったが、信也はそれに輪をかけて、
 連続して続く現実の屈折に、自身が狂いそうになっていた。
「もうわけ分かんねえよ! 美咲は黒渦に呑み込まれるし、優人は鉄球を砕くし」
「黒渦? 待って、その黒渦っていうのは身の丈より少し大きい程度の?」
「そうだよ! ついさっき、その道端にいきなり出現して友達を呑み込みやがった」
「どういうこと? アドミラルの黒渦が向こうから出現するなんて。詳しく教えて」
 藍が動揺しながら、詳細を求めると、信也は先刻起こった出来事を語りだした。
 それを見て優人は、信也が語り抜かした部分を補足しながら、説明の漏れを防ぐ。

「ということは、黒渦から人間の手が出て、貴方たちの友達、浅田 美咲を引きずり込んだと」
「そういうことですね」
 優人は思い表情で頷いた。信也はあの時、美咲の手を掴むことに必死で、
 美咲が何者かに引きずり込まれていた、ということに気づかなかったらしい。
「黒渦の出現に、人間の手、即ち成体のアッシュが出現したと。世界も大きく動き出したわね」
「意味が分かんねえ用語ばっか使われてもわけ分かんねえよ」
 藍に喧嘩ごしを示す信也を、優人がなだめる。
「落ち着け信也。藍さん、美咲の喪失と、俺の異常化は関係があるんですか?」
「そうね、貴方にはアドミラルと自身の光子能力を知って貰わないといけないわ」
 藍は両手で短髪をとくと、ちらりと青空を見て、視界を戻した。
「恐らく、これから貴方が入る世界は、美咲の救出に直結するわ」



繋がる不条理、まだ知れぬ謎。
二回目の更新ともなると、結構疲れますね。私だけかな(汗)。

応援よろしくお願いします。
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蜉蝣エスカピスト No.3

2010年05月08日 16:11

 優人は呆然と立ち尽くしていた。横を見るが、信也も同じていで立ち尽くしている。
 そもそも、突如後ろにいた少女が黒渦の中に巻き込まれて消えるなど、
 前例があるはずもない。というより現実離れし過ぎている。
 そんな中で、状況のパズルを組み合わせろ、というのは元より無理な話で、
 半開きの口を動かし、この場を状況を少しでも把握しようという優人の行動は仕方なかった。
「どういうことだよ、これ」
「そんなの、俺にも分かるわけないだろ」
 しかし、信也に問えどもまっとうな答えが返ってくるはずもなく、優人は暫く愕然とした。
 そんな状況が続く中、それを打破したのもまた、優人だった。
 だがそれは状況の把握という、正しき打破ではなく、異常な状況に更に異常を重ねるという、
 それこそが異常といえる状況の塗り替えだった。

「あ、頭が、頭が割れる!」
 優人は奇声に近い喚き声をあげると、その場にうずくまって倒れこんだ。
 霞む視界には、慌てて駆け寄る信也の姿が見える。
「どうした優人、しっかりしろ!」
 訳の分からない状況の連発に、信也は精神がぐらついているらしく、目に薄っすらと涙を溜めている。
 しかし、優人に襲った頭痛は、そんなことなど気にできない程酷いものであった。
 まるで遺伝子が、細胞、神経が疼くような、崩壊していくような、
 そんな人生で一度も味わったことのない、死に近い激痛が頭を支配する。
「痛い、痛いんだ!死に……そうに!」
 涙や唾液を垂れ走らせる優人を見て、信也は慌てて駆け出した。
 まさか、この状況に耐え切れず、この場を離れたのか。
 鈍い意識で優人が感じたことだったが、それはすぐに訂正せざるを得ないものとなった。
「水、水買ってきたぞ」
 優人は、心配して自販機の水を買ってきてくれた信也に初めて心の奥底から感謝した。
 この事態に水、というのは動揺しているせいか、あまり正しい選択とは呼べないものだっただろうが、
 優人は水分を確保したい、という心情ももっており、そのズレた選択は今回吉とでた。
 しかし、ある程度水を飲んだところで、優人はそのペットボトルを地面に落とした。
「どうした!」
「痛み、頭から体全体に広がって……」
 ペットボトルの水がアスファルトを沿って流れていく。
 滲む意識が肉体に激痛によって呼び戻される。そんな連鎖の繰り返し。
 そんな生き地獄が優人を蝕んでいく。信也はずっと叫びながら、優人の隣に寄り添っていた。

  ◇

 どれ程の時が、経過したのだろうか。
 太陽は頂点を越えて沈み始めている。察するに2時、3時といったところだろうか。
 1時間程で痛みは治まり、更に1時間を要し、大分体が安定してきた。
 優人は一息つくと、ゆっくりと立ち上がった。
 信也は張り詰めた緊張が緩んだように、暫しその場で休憩していた。
「痛み、もう大丈夫か?」
「ああ、お陰さまで。ありがとな、信也、ずっと看病してくれて」
「いいってことよ、友達だろ」
 友達だろ、という言葉が身に染みた。
 ずっと友達なんかではないと思っていた信也に、深い友情の心境が芽生えた。
 美咲の消失に対する動揺は、塗り重なったこの状況によって、大分安定の兆しを見せている。
 ただ、冷静になってことさら思うのが、あの黒渦はなんだ、何が起ころうとしている。ということ。
 痛みが治まったあと、自身になんらかの変化の感じる。
 表面的な変化ではなく、もっと深層からの変化を。優人は自分の手の平を見つめた。

「見つけたわ」
「あんたは誰だ?」
 突如近づいてきた女に、優人は目を向けた。短く揃えられた茶髪に、20代後半といったていに身なり。
 信也も女が来たことに気づいたらしく、立ち上がって優人の隣に並んだ。
 女の後ろには、二人の男が立っていたが、何か手を出したり、危害を加えようというようには見えない。
「私は伊藤 藍(いとう あい)。新堂 優人、貴方の名前は分かるわ。隣の君は?」
 会ったことがないはずの藍に名前を当てられたことに、優人は戸惑った。
「俺は甲斐 信也(かい しんや)。優人の友達だ」
「そう、新堂 優人に甲斐 信也。いえ、関係あるのは優人、あなただけね」
 眉をひそめる優人に、藍は手の平をそっと差し向けた。
「ようこそ、不条理の世界へ」



痛みの意味は? 優人に何が起こっているのか。
午前中授業ズバッと終わらせてきました。
伸ばしていた髪も、美容室でズバッと切ったので気分爽快です。

応援よろしくお願いします。

蜉蝣エスカピスト No.2

2010年05月07日 23:48

「やった、スペアだ!」
 ここ、ボウリング場で無邪気に喜ぶ美咲を見て、優人は微笑ましげにそれを見ていた。
 隣で信也も微笑んでいるのは不愉快である。

「そんじゃあ次、俺の番だな」
 信也は立ち上がると、やたら重めのボールをとって、振り被る。
 そのフォームから放たれるボールは、まさに男子とよべる、勢いに溢れた弾道だったが、
 軌道はすぐにずれていき、半分も到達する前にガーターに落ちた。
「ナイスコース!」
「うるせえ優人!」
 信也は憤慨しながらも、応援してくれる美咲に小さく手を振った。
 ボールが手元に戻ってくると、二投目を投げる。今度は上手い具合に斜めから入り込み、
 ピンは爽快な打撃音と共に、全て崩れ落ちた。
「いえーい、スペアだ! 頑張ってね、優人君」
「優人頑張れぇ」
 眉をくいくいと動かしながら、嫌味としかいえない笑みを向けてくる信也に、
 優人はこめかみに煮えたぎるものを覚えたが、隣の美咲を見て、その怒りを静止した。

「ようし見とけよ、み・さ・き」
 優人は信也などしらんぷり、といったていでボールを取ると、振り被り、放つ。
 ボールは狂いない弾道で入り込んだが、スピードやスピンが緩かった為か、1ピン残ってしまった。
「あぁ1ピン残った、1ピン残ったよ、ゆ・う・と」
 信也がゲラゲラと笑いながら指を指すのを見て、優人は顔をしかめた。
「見とけよ、俺の絶妙なコントロールでこんなもん」
 ボールを手に取り、振り被る。

  ◇

「おいおい、そんなに落ち込むなって」
 信也は肩を落としてボウリング場を後にする優人を半分嘲るようになだめた。
 美咲も、落ち込むことないよ、と肩を手を乗せる。
「全然スコアでなかった……」
「最初でスペア取り損ねてからだだ滑りだったもんね。そんなこともあるって」
 肩を乗せていた手を背中に動かし、後ろから優しく押してくれた美咲に、
 優人は心が癒された。信也とは大違いである。

「そんじゃあ次は、カラオケ行きますか。俺が穴場を教えてやるよ」
 そう言って信也は、人通りのない裏道へと進んでいく。
 優人はそれを不安気に思ったが、信也じゃ大丈夫と笑顔で手招きした。
 躊躇なく裏道へと向かう美咲を見て、優人も仕方なさげにそれに着いていく。

「おいおい、本当にこんな裏道通って大丈夫なんだろうな」
「義理人情溢れる友達の言うことぐらい信じろよ。その穴場が安いのなんの」
 自分で言うなよ、と思い細い目で見る優人だったが、
 信也の自信溢れる表情を見て、この顔なら大丈夫だろう、と認識した。
 思えば美咲は最初からその表情を見取っていたのかも知れない。
「なあ美咲」
 何気なく振り返った優人は絶句した。
 背後に大男でもすっぽり入るような黒い渦の穴が出現し、美咲がそれに呑み込まれようとしている。
 いや、美咲が黒渦の向こう側から人の手によって引っ張られているのを見る限り、
 呑み込まれているのではなく、何者かに引き込まれているのだろう。
「え、あれ?」
「美咲ぃいいいいいいい!」
 美咲は状況を理解しきれていない様子だ。優人は叫んだが、足が動かない。
 人間というものは、こういう予期せず状況が突如として起こった時、体が上手く反応しないものだ。
 それでも信也は口を大きく開き、獣のように喚きながら美咲の手を掴もうとしたが、
 伸ばした手は美咲に届くことなく、黒渦に引き込まれていった。
 黒渦が消えるとそこに残っていたのは、理解不能な現状と、不意に訪れた絶望だけであった。



楽しい休日は一転、少年達を絶望に引きずり込み、物語は加速する。
地道ですが、更新頑張ります。そんな私は明日、授業参観で午前中授業。
萎え。

応援よろしくお願いします。

蜉蝣エスカピスト No.1

2010年05月07日 00:00

 4月14日、午前10時。
 高校で始業式が行われてから初めての日曜日。
 浅田(あさだ)、と表札をかかげた二階建ての家の前に、
 黒髪を首下までのショートカットでキメこんでいる、新堂 優人(しんどう ゆうと)は立っていた。
 今年で高校三年生、年は17の優人は170と少しある視点から、二階の窓を覗き込む。
「遅いなあ。もう10時だし、中に入ってもいいんだけど」
「おっす!」
 朝の住宅街には少々大きな声が、玄関からではなく右手の道路から響く。
 優人が振り向くと、金髪の少年が歩み寄ってきた。

「朝から元気、というよりうるさいねえ、クラスメイトの甲斐 信也(かい しんや)君」
「君こそ、朝からストーカーに見間違われるよ、クラスメイトの新堂 優人君」
「分かりやすいからここがいいって言ったのお前だろ!」
 優人が喧嘩ごしに仕掛けたのをきっかけに会話はエスカレートしていく。
 朝にはいささか騒々しい声に張り合いが、住宅街に響いた。

「ごめんごめん、遅れちゃった! それにしても声、響いてたよ」
 今度は玄関の戸が開くと、慌てたように少女が飛び出し、声をあげた。
 信也は少女を見ると、それまで眉間に寄せていたシワを一気に引かせ、白い歯を見せた。
「やあ浅田さん、今日はなんて太陽が眩しい日なんだ。そう、君は太陽」
「朝から白馬の王子様テンションはいいよ。いつもは美咲(みさき)って呼んでるくせに」
「悪い悪い、優人はどうでもいいけど、美咲と同じクラスなんだって思うとテンションあがっちゃって」
 信也は笑みを見せると、優人は怒りを堪え、苦笑いを浮かべながら割って入った。
「大体、今回は俺と美咲だけでよかったんだ。お前は毎回毎回着いて来んな」
「いいじゃないか。大体お前ら、男女二人で歩いてたらカップルだと思われっぞ」
「優人、信也の言う通りだしいいじゃない、二人より三人の方が盛り上がるし」
「そーだそーだ」
 煽る信也にむっと眉間を寄せつつも、美咲も言うならばと、優人は渋々納得した。

 元々、優人と美咲は保育園時代からの幼馴染で、二人で遊ぶことなどは多々あった。
 中学時代にもなると、周りからはカップルだのなんだのとちやほやされたが、
 実際、優人と美咲には互いに恋愛感情は存在せず、
 それは言わば、兄弟姉妹に近い関係と呼ぶに相応しかった。
 そんな二人の関係に間を裂いて入ってきたのが信也だった。
 信也とは高校からの仲だが、今年で高校三年生になった優人、美咲とは三年間同じクラスである。
 美咲と三年間同じクラスになれたのは、優人にとって最高の奇跡であったが、
 信也とも三年間同じクラスになったのは、優人にとって最悪の不幸であった。
 ともあれ、そういう経緯があって、今三人は仲良しこよし? という状態にあり、
 始業式を迎えて最初の日曜ということで、遊ぶことになったのだ。

「さあさあ最初はどこから行きますか、皆でせーの、ボウリング!」
「言ってないよぉ」
 勝手に盛り上がる信也と美咲を横に、優人は少々鬱に浸っていた。
 個人的な要望としては美咲と二人で喫茶店に行ってコーヒーをたしなむ。
 そんなロマンチックで少しばかり背伸びしたようなことをしたい。
 しかし、今更そんなことを言っていては始まらない。優人はふっ切れたように叫んだ。
「あぁもう! ばんばんボウリングいっちゃおう!」
「盛り上がってきました!」



出だしの意味不明さとは相なって、今度はさわやかパンチな意味不明さです。
優人、信也、美咲、最初からはっちゃけ過ぎです。本当にありがとうございました。

応援よろしくお願いします。

蜉蝣エスカピスト No.pr

2010年05月06日 16:13

 どんな世界にも、現実逃避したくなるような不条理は沢山ある。
 その不条理が誰を対象にするのかもまた、不条理で、
 時として人は、耐え難いような現実に直面することがある。
 それを人は不幸と呼び、それに耐え兼ねた時、人は殻を破ることを止める。

 蜉蝣(かげろう)エスカピスト。不幸という二文字の理由で、
 現実逃避したくなるような分厚い殻を背負ってしまった彼等は、果たして羽化出来るのだろうか。
 もし羽化した時には見せて欲しい。その透明色で優美な羽を。

  ◇

 時は2012年、4月14日。日本、某所。
 政府の勅命によって結成された秘密団体ウィズ(W.I.S)。
 ウィズは政府の厳重態勢によって、国民はもちろん、諸国にもその存在を悟られぬよう、
 秘密裏に造られた地下施設によって活動を行っている。
 その中でも重要な役割を担っている指令室によって、ことは始まった。

 管理室としても同意をなしているこの部屋では、行動時の指令のほか、
 計画思案や、外部との情報通信など、様々な重要事項が行われている。
 その指令室の指令長が放った一言により、指令室はどよめいた。

「光子進化が発生したわ」
「場所の特定は!」
 指令長は焦る指令員に対し、手を突き出し制すと、逆の手を耳に当て、神経を澄ませた。
「場所は特定中だけど、光子能力は分かったわ。能力名、限界突破(スーパーマン)。肉体強化系ね」
「限界突破(スーパーマン)ですか。いずれにしろ、パンドラに対する対抗戦力が増えましたね」
「そうね。そしてまた、2012年による無作為な被害者が増えたわ」
 指令長は重く息をつくと、立ち上がった。
「場所が特定出来たわよ。行きましょう、不条理への勧誘に」
 指令長は椅子にかけていたシャツを上から羽織ると、指令室を出た。
 それに慌てて指令員が二人、同行する。不条理の始まりが告げられた。



始まりました、カゲロウ・エスカピスト。
出だしから意味不明だと思いますが、それはりぼクオリティということで(汗)。

応援よろしくお願いします。

アリファリング No.ep メイプルストーリー

2010年05月03日 00:34

 この世界はメイプルワールド。その中のビクトリアアイランドに存在する街ヘネシス。
 緑豊かな自然と、それに調和するように安穏とした街並みが広がっている。
 この街の民家はおおよそ集合しているが、そこからは少し離れ、森林部に位置する民家がある。
 人里離れたその民家に住む少年は、艶やかな銀髪をなびかせながら、家を出た。
 背中には父の形見であったアダムの王剣ではなく、切れ味には自信のある、自前の剣を持参している。
 以前は危険を察知し、隠れていたモンスター達だったが、
 今は、殺気を全く出さず、共存の意を示しているフェイルの横を平然と通っていく。
 切り株モンスターのスタンプや、キノコモンスターのメイプルキノコが悠々を周りを通っていく中、
 スライムの群れがフェイルの前方に立ち塞がった。

「お! お前達、またやるのか?」
 フェイルは笑むと、3秒でスライムの群れを蹴散らしてみせた。
 中には真っ二つに切り裂かれたスライムもいるが、形状記憶能力を持っている為、すぐに再生する。
 スライム達は納得いかなげだったが、負けは負けと認め、追撃はしなかった。
「お前達も懲りないなあ。またいつでもこいよ」
 そう言って、フェイルは剣を担ぐと、上機嫌で歩いていった。
 スライム達にとっても、フェイルにとっても、これは恒例といったようなもので、
 お互い切磋琢磨する為のものである。といってもフェイルにとっては遊び同然なわけだが。

 フェイルが森林の奥へと進んでいると、虹色の蝶が横を通った。
「もうすぐってことだな」
 フェイルが虹色の蝶を追っていると、何やら足場が緩い。
 ここだと言わんばかりにそこの草を掻き分けると、穴があった。
「そうそう、この穴だ。あの時はうっかり落ちたからな」
 フェイルが穴に飛び込むと、穴は変わらず長い滑り台のようになっており、
 そこを滑っていると、到着地点が見えた。しかし思いのほか速度が早く減速が追いつかない。
 フェイルはしりもちをつくと、そのまま悶絶した。
「これじゃ前の時と同じじゃないか。でもケツで着地するの上手くなったかも。成長したな俺」
 そんな以前とも感傷に浸りつつも、フェイルは辺りを見回すと、感極まった。
「やっぱし二度目でも秘境は綺麗だ。というか宝石箱だなこりゃ」
 勝手に風評をつかながら、相変わらずの魅力に惹かれつつも、
 フェイルは我を思い出したように辺りを見回す。
 最果ての泉、その周辺、秘境全体。しかし全てを見回したうえで肩を落とした。
「そりゃあ結晶が再構築されてるわけないよな」
 フェイルが期待していたのは、結晶が再構築されていないかだった。
 そもそも、結晶自体が悪心の塊のような物ゆえ、そんな軽々と悪心が復活しては困るわけだが、
 やはりフェイルはアリファのことを割り切れなかったのだ。
 もし結晶が再構築されていれば、アリファがそこに居るかもしれない。
 そんな薄い望みを懸けて。その望みが叶えば、また世界は危機に晒されるわけだが。

 フェイルは最果ての泉まで走った。泉の下まで辿りつくと、あぐらをかいて、水面とにらめっこする。
 無論、いくらにらめっこしようとも、水面には自分しか映らず、結果すぐ頭をあげるだけなわけだが。
「変な話だよなあ、世界が平和であればある程、お前とまた会える可能性がなくなるなんて」
 フェイルは泉に向かってぼやいたが、何も返ってくるものはなかった。しかし、構わず話を続ける。
「お前が葬られたあの後さ、ヨシアとリツカ、なんかニマニマしちゃって。俺達は二人で旅を続けようと思う、何か大切なものが見つかるかもしれないから。とか言って俺だけ残して二人旅よ」
 手でしぐさを加えながら説明するフェイルだが、やはり何も返ってこない。
 というより、何か返ってくることを期待しているわけでもないのだが。
「大切なものが見つかるかもって、お前等もう隣にあるじゃないかって話よ。あるじゃなくて、いるが正しいかな」
 水面がそれとなく、揺れたような気がして、フェイルは乗り気で話を進めた。
「結局ボインボイン言ってたけどさ、何だかんだで相思相愛ってやつだったんだって思うよ。あいつ等」
 泉が波打ったように見えた。というより、波打った。
 偶然といえばそれまでだが、フェイルにはアリファの意識のようなものが感じ取れた。

「悪い、話がそれた。本当はさ、返しに来たんだ、指輪。あの時、気が気じゃなくて頭のどこかに吹っ飛んでから渡せなくて、今更なんだけどね。俺はアリファといつでも一緒。なんてね」
 フェイルは指から指輪を抜くと、指輪を水面にかざしてみた。
 水面には綺麗なニスのかかった木製の指輪が映る。別段高い代物ではないが、
 何故かそこらの高級品なんかよりは、一段綺麗に見えた。
「リスでこれをプレゼントした時、お前は物凄く喜んでくれたよね。俺はそれが嬉しくてたまんなくてさ、気持ちがこもった物には心が宿る。なんて言ってさ、有頂天になってたっけな」
 水面の揺れを見ながら、フェイルは陽気に話す。
「でも、もうお前は俺の中にいる。だからこの指輪は必要ないんだ。返すよ。ありがとな」
 フェイルは指輪を握った手の上に乗せると、コインを弾く要領で指輪を弾いた。
 指輪は綺麗な弧を描き、泉の中に落ちると沈んでいく。
 見えなくなっていく指輪を眺めながら、見えなくなったのを確認すると、フェイルは立ち上がった。
「さてと。長話してもなんだし、俺はそろそろ行くわ」
 フェイルは服についた、泥などをはたくと、髪をクシャクシャと掻いた。
 掻いたうえで、再度整えると、ふと息をつく。
「またね、なんて言わないよ。俺はもうここには来ない。悪心は復活しないと確信したから」
 それはすなわち、アリファはもう現れないという確信でもあり、現実とのけじめでもあった。
 フェイルが踵を返し、秘境を後にしようとしたその時、
 水面が音をたてたかと思うと、どこからか懐かしいような声が聞こえた。

「じゃあね、フェイル」
 フェイルは振り向いたが、人影はどこにもない。
 思わず、息を漏らすと、体ごと振り向き、手を上げた。
「じゃあね、アリファ」
 そう言ってフェイルは、迷いなく再度踵を返すと、秘境を後にしていった。
 フェイルがいなくなった秘境に、木々のざわめきと泉の滴る音が響く。
 空は快晴。天気からして明日もまた、晴れそうだ。



遂に完結! おめでとう俺!
なんか意味不明な小説でしたけど、最後はスパッと纏めてジ・エンド。
終わりよければオールOKということで、アリファリング完結させて頂きます。

でも何だかんだいって本当、書いてよかったです。
完結までだらだら更新だった癖に言うのもなんですけど、名残惜しいです。
もうフェイルやアリファとは話を展開していけないと考えると、なんか……はい。

まあこれは次のバネにするということで、あとがきにさせて頂きます。
本当にありがとうございました! 次回作にもご期待ください。

応援よろしくお願いします。

アリファリング No.36 愛してる

2010年05月02日 18:51

 私を殺して。そう最初に言われたのは、最果ての泉で出会った時だった。
 ただ、あの時とは違う感情がフェイルの脳裏を伝う。
 
 最初に殺してと言われた時、アリファはフェイルを間違ってないかと言った。
 虫を容易く足で潰し、面白半分で小動物をなぶり殺しにし、果てに育てた家畜を平然と喰らう。
 それなのに人は殺せないとは如何たることか、と。
 それに対しフェイルは、人が人に情を抱いて何が悪いと反論した。
 そして口論は加速し、それに終止符をうったのは、フェイルの
「生きる意味なんていくらでもあるさ」
 という言葉である。

「嫌だ、殺したくない」
 感情に従ったフェイルだったが、その言葉にはあまりに発言力はなく、だらしなく至災の間をこだました。
「私はもうもたないわ。完全に悪心に支配される前に早く」
「それでも嫌だ! 俺は、お前を……お前を失いたくないんだよ」
 目元に涙を溜めながら、フェイルは剣先を下げた。
 時間がない中、決意の定まらぬフェイルに激情することもなく、アリファはそっとなだめ続ける。
「対剣が、アダムとイヴの剣が常に争いを作るから、こんなにも悲しみが起こるのよね。だから、私が自らと共に、この対剣を時空に葬れば、こんな争いはもう起こらないわ。お願い、私を殺しテ」
 アリファの目が黒ずみ始めているのがわかった。また悪心が支配し始めているのだろう。
 こうなっては最早、アリファと悪心は共有状態にあり、悪心だけを葬るということは叶わない。
 もうアリファを救う選択肢はないのだ。ただ、世界を救うか救わないかの選択肢しか。
 フェイルには決意するか、しないかしか残されてはいなかった。

 リツカがそれを酷に見守る中、ヨシアはフェイルの背中を押すように叫んだ。
「フェイル、これが世界の性なんだ。アリファの為にも、アリファを殺せ!」
 フェイルは口の中に溜まっていた唾を飲み込むと、剣先をあげた。決意に歪みはない。
「アリファ=ベルモンド。俺はお前のことが、大好きだ」
 アリファの腹部に刺さったイヴの妃剣のすぐ隣に、アダムの王剣は並ぶように突き刺された。
 その瞬間、フェイルが堪えきれずに涙をこぼしこぼしに流すと、
 アリファはそっとフェイルの体を抱きしめた。
 シースルーの服を越えて、フェイルの肌にアリファの温もりが伝う。
「フェイル=ディアン。私も貴方のことが、大好きよ」
 アリファの目からも大粒の涙がこぼれていた。
 ヨシアとリツカが、それを忍びなくも、少しでも目に焼き付けようとしている中、
 あまりに時間がないアリファは泣き崩れるフェイルを背に、陣の上に立つ。

「至災の間よ、我を時空の歪に葬り給え」
 アリファがそう言うと、陣が光を放ち、アリファの体を発光させ始めた。
「ありがとう皆、私に楽しむことを教えてくれて。ありがとう皆、私を喜ぶことを教えてくれて」
 ヨシアとリツカが涙をこぼすのは、人間としてごく当然のことであった。
 少なかったが、日々を共にした仲間が今、時空の歪に葬られようとしている。
 大切を人を失う以上に、悲しいことがあるのだろうか。
「ありがとうフェイル、私に愛することを教えてくれて」
「アリファ!」
 フェイルは、止まらない涙を拭い続けながら、アリファを見続けた。
 今からアリファが居なくなる。もう二度と会えなくなる。
 考えてはいけないと何度思っても、そんな感情が脳裏を過ぎり、涙腺を刺激する。
 止めたいはずの涙なのに、意思に反してちっとも止まってくれやしない。
 息を荒げ、鼻をすするフェイルに、アリファは涙を流しながらも、笑顔を見せた。

「愛してる」
 アリファが微笑みながらそう言った刹那、陣から強烈な光が放たれ、フェイル達の視界は真っ白になった。
 光が収まり、目が慣れ始めた頃にはアリファの姿はなかった。陣によって、時空の歪に葬られたのだ。
 フェイル=ディアン、ヨシア=ロダン、リツカ=イタチの三人は、
 アリファ=ベルモンドが確かに存在していたということを生涯忘れないよう、記憶に深々と刻み込んだ。

 最初に息をついたのはヨシアだった。そこから一気に皆が崩れる。
 ヨシアは仰向けに倒れこみ、リツカは横向きに流れるように倒れ、フェイルはうつ伏せの体勢で泣き入った。
 消えてしまった今でも、アリファの存在感はフェイル達の中にしっかりと宿っており、
 いくらもう居ないと頭に言い聞かせても、振り向けばアリファが居る気がしてならなかった。
 フェイルは現実を受け止めたがらない自分と葛藤していると、ふとした拍子に何と関係もなく外が気になった。
 塔の中じゃわからないが、今は晴れているのだろうか。
 入った時は確かに晴れていたが、今もまだ晴れているとは言い切れない。
 ただ、外に出た時晴れていれば、少しはこの旅も報われた気がする。
 そんな緩んだ感情が、もう旅は終わったのだと告げているようで、フェイルの心は僅かばかり安らいだ。



まだ終わりじゃないですよ、次が最終話です。
というか、私が感傷モードへ突入しようとしている(汗)。
誰が見てるのかもわからない誰得小説ですが、続けてよかった!うん!

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