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曇天 中

2010年01月31日 16:02



 車内に荷物を置き、席に着くと純は大きく一息ついた。ポケットからキーを取り出しエンジンをかける。

 ドルン、ドルンとうるさいマフラー音と共に車体が振動で揺れだす。廃車の予定だっただけにこの振動が不快のなんの。


 純は大きな欠伸をしたあと、目尻に浮かんだ涙を手で拭ってからアクセルを踏んだ。

 目的地はもちろん家。今日も何気ない日常の一日、やる事等ある筈も無く。


 車道をブイブイと走らせる中、純は助手席に無造作に置かれたカセットテープを取ってデッキに差し込んだ。

 暫く雑音が鳴った後、ガチャリと音を立てて昭和レトロな音楽が車内を響く。ボリュームを上げ気分は快調、純の年頃には堪らないポンキッキーの“歩いて帰ろう”と共に思いふける。



 走る街を見下ろして のんびり雲が泳いでく……。


 ナイスレトロ! あの頃は本当に良かった、誰もかれもが純心に満ちて、何の不満も無く生きていた。まだ若かりしあの頃は。

 純はため息をつきながら手動のレバーを回して窓を少し開けた。胸のポケットから煙草を一つ取り出し、ライター片手に火を灯す。煙草が赤く灯ると、ライターを放り投げ大きく煙を吐き出した。


 この世の中を吐き出すように。

 煙は窓の隙間から抜けていき、上昇していく。その様はまるで曇天に吸い込まれていくようであり、異様な何かを漂わせている。



 何時からだろうか?

 この何の面白さも無い、くだらない世界をくだらないと決め付けたのは。前の見えない世界に対して、前に進むことも忘れて億劫になってしまったのは。そしてそれを平然とやりすごす自分は何なのか。


 何時しか佐東 純は自分が曇天でいることに気づかなくなっていた。晴れる事も知らず、雨を降らす事も知らず。ただどちらも選ばずやりすごす。

 不安で嘲る事もせず。



 だから歩いて帰ろう 今日は歩いて帰ろう。


 曇天の空じゃ、歩いて帰る事さえままならない。

 懐かしきあの頃を思い出させてくれていたはずの“歩いて帰ろう”は、結果的に終わる頃には純の宿す曇天の億劫さを露呈していた。純は歯ぎしりを立て、カセットを取り出す。


 あの頃さえ、今では俺を馬鹿にするのか?


 純は必要以上に煙を吐き出す。車内に充満する煙を効率よく排出する為に更に窓を開けた。

 風のビュンビュンと突き抜ける音が僅かばかり純の心境を落ち着かせる。そんな瞬間だった。


 瞬間は仰天と化す。


 純は何も間違っていなかった。向こうの失態。青信号を気にせず渡る純に対し、突如横断歩道から一人の少女が視界に飛び込んできた。

 少女は耳元にイヤホンをはめ、音楽鑑賞に浸っている。それ故、赤信号を渡っていることにも気づかず。



 純は目を丸くし、急激にブレーキを踏み込んだ。タイヤとコンクリートの擦れる音がギャリギャリと曇天に響く。そういう刹那、人は生を忘れる。ただ刹那の緊張に意識の全てを支配され。

 ただ響くは曇天に地鳴る摩擦音、高々し。









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