--年--月--日 --:--

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

蜉蝣エスカピスト No.2

2010年05月07日 23:48

「やった、スペアだ!」
 ここ、ボウリング場で無邪気に喜ぶ美咲を見て、優人は微笑ましげにそれを見ていた。
 隣で信也も微笑んでいるのは不愉快である。

「そんじゃあ次、俺の番だな」
 信也は立ち上がると、やたら重めのボールをとって、振り被る。
 そのフォームから放たれるボールは、まさに男子とよべる、勢いに溢れた弾道だったが、
 軌道はすぐにずれていき、半分も到達する前にガーターに落ちた。
「ナイスコース!」
「うるせえ優人!」
 信也は憤慨しながらも、応援してくれる美咲に小さく手を振った。
 ボールが手元に戻ってくると、二投目を投げる。今度は上手い具合に斜めから入り込み、
 ピンは爽快な打撃音と共に、全て崩れ落ちた。
「いえーい、スペアだ! 頑張ってね、優人君」
「優人頑張れぇ」
 眉をくいくいと動かしながら、嫌味としかいえない笑みを向けてくる信也に、
 優人はこめかみに煮えたぎるものを覚えたが、隣の美咲を見て、その怒りを静止した。

「ようし見とけよ、み・さ・き」
 優人は信也などしらんぷり、といったていでボールを取ると、振り被り、放つ。
 ボールは狂いない弾道で入り込んだが、スピードやスピンが緩かった為か、1ピン残ってしまった。
「あぁ1ピン残った、1ピン残ったよ、ゆ・う・と」
 信也がゲラゲラと笑いながら指を指すのを見て、優人は顔をしかめた。
「見とけよ、俺の絶妙なコントロールでこんなもん」
 ボールを手に取り、振り被る。

  ◇

「おいおい、そんなに落ち込むなって」
 信也は肩を落としてボウリング場を後にする優人を半分嘲るようになだめた。
 美咲も、落ち込むことないよ、と肩を手を乗せる。
「全然スコアでなかった……」
「最初でスペア取り損ねてからだだ滑りだったもんね。そんなこともあるって」
 肩を乗せていた手を背中に動かし、後ろから優しく押してくれた美咲に、
 優人は心が癒された。信也とは大違いである。

「そんじゃあ次は、カラオケ行きますか。俺が穴場を教えてやるよ」
 そう言って信也は、人通りのない裏道へと進んでいく。
 優人はそれを不安気に思ったが、信也じゃ大丈夫と笑顔で手招きした。
 躊躇なく裏道へと向かう美咲を見て、優人も仕方なさげにそれに着いていく。

「おいおい、本当にこんな裏道通って大丈夫なんだろうな」
「義理人情溢れる友達の言うことぐらい信じろよ。その穴場が安いのなんの」
 自分で言うなよ、と思い細い目で見る優人だったが、
 信也の自信溢れる表情を見て、この顔なら大丈夫だろう、と認識した。
 思えば美咲は最初からその表情を見取っていたのかも知れない。
「なあ美咲」
 何気なく振り返った優人は絶句した。
 背後に大男でもすっぽり入るような黒い渦の穴が出現し、美咲がそれに呑み込まれようとしている。
 いや、美咲が黒渦の向こう側から人の手によって引っ張られているのを見る限り、
 呑み込まれているのではなく、何者かに引き込まれているのだろう。
「え、あれ?」
「美咲ぃいいいいいいい!」
 美咲は状況を理解しきれていない様子だ。優人は叫んだが、足が動かない。
 人間というものは、こういう予期せず状況が突如として起こった時、体が上手く反応しないものだ。
 それでも信也は口を大きく開き、獣のように喚きながら美咲の手を掴もうとしたが、
 伸ばした手は美咲に届くことなく、黒渦に引き込まれていった。
 黒渦が消えるとそこに残っていたのは、理解不能な現状と、不意に訪れた絶望だけであった。



楽しい休日は一転、少年達を絶望に引きずり込み、物語は加速する。
地道ですが、更新頑張ります。そんな私は明日、授業参観で午前中授業。
萎え。

応援よろしくお願いします。
スポンサーサイト


コメント

    コメントの投稿

    (コメント編集・削除に必要)
    (管理者にだけ表示を許可する)

    トラックバック

    この記事のトラックバックURL
    http://no1really.blog122.fc2.com/tb.php/51-00ffe4e7
    この記事へのトラックバック



    上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。