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蜉蝣エスカピスト No.3

2010年05月08日 16:11

 優人は呆然と立ち尽くしていた。横を見るが、信也も同じていで立ち尽くしている。
 そもそも、突如後ろにいた少女が黒渦の中に巻き込まれて消えるなど、
 前例があるはずもない。というより現実離れし過ぎている。
 そんな中で、状況のパズルを組み合わせろ、というのは元より無理な話で、
 半開きの口を動かし、この場を状況を少しでも把握しようという優人の行動は仕方なかった。
「どういうことだよ、これ」
「そんなの、俺にも分かるわけないだろ」
 しかし、信也に問えどもまっとうな答えが返ってくるはずもなく、優人は暫く愕然とした。
 そんな状況が続く中、それを打破したのもまた、優人だった。
 だがそれは状況の把握という、正しき打破ではなく、異常な状況に更に異常を重ねるという、
 それこそが異常といえる状況の塗り替えだった。

「あ、頭が、頭が割れる!」
 優人は奇声に近い喚き声をあげると、その場にうずくまって倒れこんだ。
 霞む視界には、慌てて駆け寄る信也の姿が見える。
「どうした優人、しっかりしろ!」
 訳の分からない状況の連発に、信也は精神がぐらついているらしく、目に薄っすらと涙を溜めている。
 しかし、優人に襲った頭痛は、そんなことなど気にできない程酷いものであった。
 まるで遺伝子が、細胞、神経が疼くような、崩壊していくような、
 そんな人生で一度も味わったことのない、死に近い激痛が頭を支配する。
「痛い、痛いんだ!死に……そうに!」
 涙や唾液を垂れ走らせる優人を見て、信也は慌てて駆け出した。
 まさか、この状況に耐え切れず、この場を離れたのか。
 鈍い意識で優人が感じたことだったが、それはすぐに訂正せざるを得ないものとなった。
「水、水買ってきたぞ」
 優人は、心配して自販機の水を買ってきてくれた信也に初めて心の奥底から感謝した。
 この事態に水、というのは動揺しているせいか、あまり正しい選択とは呼べないものだっただろうが、
 優人は水分を確保したい、という心情ももっており、そのズレた選択は今回吉とでた。
 しかし、ある程度水を飲んだところで、優人はそのペットボトルを地面に落とした。
「どうした!」
「痛み、頭から体全体に広がって……」
 ペットボトルの水がアスファルトを沿って流れていく。
 滲む意識が肉体に激痛によって呼び戻される。そんな連鎖の繰り返し。
 そんな生き地獄が優人を蝕んでいく。信也はずっと叫びながら、優人の隣に寄り添っていた。

  ◇

 どれ程の時が、経過したのだろうか。
 太陽は頂点を越えて沈み始めている。察するに2時、3時といったところだろうか。
 1時間程で痛みは治まり、更に1時間を要し、大分体が安定してきた。
 優人は一息つくと、ゆっくりと立ち上がった。
 信也は張り詰めた緊張が緩んだように、暫しその場で休憩していた。
「痛み、もう大丈夫か?」
「ああ、お陰さまで。ありがとな、信也、ずっと看病してくれて」
「いいってことよ、友達だろ」
 友達だろ、という言葉が身に染みた。
 ずっと友達なんかではないと思っていた信也に、深い友情の心境が芽生えた。
 美咲の消失に対する動揺は、塗り重なったこの状況によって、大分安定の兆しを見せている。
 ただ、冷静になってことさら思うのが、あの黒渦はなんだ、何が起ころうとしている。ということ。
 痛みが治まったあと、自身になんらかの変化の感じる。
 表面的な変化ではなく、もっと深層からの変化を。優人は自分の手の平を見つめた。

「見つけたわ」
「あんたは誰だ?」
 突如近づいてきた女に、優人は目を向けた。短く揃えられた茶髪に、20代後半といったていに身なり。
 信也も女が来たことに気づいたらしく、立ち上がって優人の隣に並んだ。
 女の後ろには、二人の男が立っていたが、何か手を出したり、危害を加えようというようには見えない。
「私は伊藤 藍(いとう あい)。新堂 優人、貴方の名前は分かるわ。隣の君は?」
 会ったことがないはずの藍に名前を当てられたことに、優人は戸惑った。
「俺は甲斐 信也(かい しんや)。優人の友達だ」
「そう、新堂 優人に甲斐 信也。いえ、関係あるのは優人、あなただけね」
 眉をひそめる優人に、藍は手の平をそっと差し向けた。
「ようこそ、不条理の世界へ」



痛みの意味は? 優人に何が起こっているのか。
午前中授業ズバッと終わらせてきました。
伸ばしていた髪も、美容室でズバッと切ったので気分爽快です。

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